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鏡面のクロノスタシス  作者: 悠葵のんの
二章【地雷乙女の物語】
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XX話『孤独に耐えかねた、寂寞なる地雷乙女』

 いつからわたしは、こんなに暗い場所にいたのだろう。

 八つ当たりみたいな口論をして、町へ出て、でも夜になると光がどうしても眩しくて。

 逃げるように裏路地へ入った。


 するとどうだ。

 今度は怒りで誤魔化していた孤独が、抱擁してくるじゃあないか。

 ああ……自分でも、気分が落ち込んでいることは分かってる。


 どうして。愛されるためには努力する必要があるって学んだ。だから必死に愛されようとしてきた。でもやり方が間違ってるのか、本当はできてないのか、それとも相手が悪いのか、結局はいつもこうなる。


 わたしは選ばれない側で、その事実に落ち込んで、病んで、沈んで、血の滲む左腕に爪を立てる。


「……ふざけんな」


 違う。こうして腕に傷をつけるのは、誰かに構ってほしいからじゃない。

 消したい。上書きしたいんだ。無いはずなのに見えてしまう、点滴痕を――。


「ふざけんな。ふざけんな、ふざけんな。ふざけんなふざけんなふざけんな――ふざけんな‼」


 わたしはもう昔とは違う。もう閉じ込められてなんかいない。

 ここは病室の外で、好きな場所に行って、好きな物を食べて、恋も愛も全部思うがままだ。

 自由なんだ。自由の、はずなんだ。


 それなのにどうして、こんなにも渇きは癒えてくれないの。

 ひとりが寂しい。冷たい。もっと温かいものが欲しくてたまらない。


 だけど、それだけがどうしても手に入らない……!


「なんでみんな、わたしから離れていくの……ねぇ……誰か教えてよ……」


 こうなったらもうおしまい。

 あとは時間が経つのを待つだけ。

 治るわけじゃない。よくなるわけじゃない。

 ただ悪化した状態に、慣れていくだけ。

 

 自己嫌悪の沼に足を取られて、深い闇に溺れて、そして――そんな自分に酔って、誤魔化すんだ。

 盲目のフリをして、酩酊のフリをして。

 そうやってまた、足を動かし始める。


「もう……捨てちゃいたい……楽になりたいのに……」


 いくら本音を吐露しても、別の本音がこう囁く。

 お前は自分ひとりじゃ満たされないようにできてるんだ。

 誰かが埋めてくれないと心の空洞は消えてくれないんだ。


 ……う、うう。ううう。誰か教えて。関わる人を傷つけて、傷つけられるしかないわたしは、こんなにも不完全なわたしは、なんでこの世界に生まれたの。


 どうして死にたくなるほど苦しいのに、気付いたら手を伸ばしているんだろう――?


 うふふ、あはは。バカみたい。

 でも大丈夫。きっとあと数分もすれば、こう思い始めるはずだから。


 こんなに辛い思いをしても、したからこそ、いつか、いつか、自分を助けてくれる人が現れるよね。見つけることができるよね……ってさ。


 次はワガママ言いません。お花畑のような景色もいりません。

 わたしに特別な感情を向けてくれるなら、それが愛情じゃなくても、哀情だったとしても。

 それで足りないモノが手に入るなら……。

 


「――哀れな子」



 ()()()()()()()()()、気がした。

 顔を上げると、裏路地に佇む人影が目に映った。


「蝶よ花よと愛でられないのなら、どれだけ汚くても惨めでもいいから哀が欲しいだなんて。中々どうして、見下し甲斐のある子じゃない」


 彼女は嗤っていた。妖艶に。空虚に。あるいは――聖母のように。


「ねえ。もしも、あなたの望みを叶えてくれるモノがあると言ったら、受け取ってくれる?」


 ……あれ、誰だっけ。

 その綺麗な髪、どこかで見た覚えが、ある、ような。

 まあいっか。今はどうなったっていい気分なんだ。

 わたしに恵んでくれるなら、それがなんだって、よろこんで受け取っちゃう。


「では、孤独に耐えかねた、寂寞なる地雷乙女に授けるわ――我が妖刀を」


 まだ――欲しいか。

 欲しいなら立ち上がれ。立ち上がらなければ手は届かないぞ。

 手を伸ばせ。届かなかったモノに。届くはずのモノに。

 諦めることは認めない。何より自分が許さない。

 ほら、さあ。


 ――わたしを救ってくれる王子様は、どこにいるのかな?


 目蓋を開けると、女が血を流して死んでいた。

 茶髪を短くまとめた髪型で、偉い人みたいにきちっとした服を着ている。

 全部、赤い染みが付いちゃって台無しだけど。

 

 んん。あれ。よく見たらこの人、知ってる。

 なんだっけ。ついさっきのことが思い出せない。

 なら顔を見たら分かるかも。

 どうせもう死んでるし、身体をひっくり返すくらい許してくれるよね。


 手のひらにべっとりと液体が付いた。

 うぇー、ヌメって気持ち悪い。これじゃあうまく掴めないじゃん。

 もう、仕方ないなぁ。

 丁度よく使えそうな棒を持ってたから、これに引っ掛けて、と。


 ふー、女の子には大変な力作業。

 でもその甲斐あって、やっと顔が見えた。

 もしかして泣きながら死んじゃったのかな。可哀想、ひどい顔。

 でも思い出したよ。


 この人は――シャーロット。とか呼ばれてた会長様だ。


 うん。すっきり。分からないものが分かるとすっきりするなぁ。

 じゃあ行こう。こんなにも気分は晴れやかなんだから。

 この先には必ず良い出会いがあるはずだよ。


 お姫様(わたし)がいるから、きっと王子様(だれか)がいる。

 王子様(だれか)がいるから、きっとお姫様(わたし)がいる。


 間違いない。だって昔、来たんだから。王子様。

 好みじゃなかったから殺しちゃったけど。

 はーあ。

 次こそは――わたしを×してくれたら、いいなぁ。


 ほら、早速ひとり。靴音が聞こえました。


「南支部所属の騎士ウィリアムだ! そこを動くな! いいか、妙なことをするなら剣を抜くことになる! 理解したな⁉」


 うーん、ハズレ。


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