8. 彼との会話
彼は、少しの間テレビ出演を休むのだと、朝のニュース番組が伝えていた。
「まだ、良くないのかなぁ…」
ふと、テーブルの上に置いた、あの名刺が目に入った。必ず連絡くださいって、言ってたっけ。ここ何日か、企画書の進みが悪くて残業続き。一段楽するまで、彼のことを考える余裕も無かったのだ。
お礼…は、どうでもよかったけれど、彼の様子が聞きたくなった。今日、仕事終わりに電話してみようか。名刺をスマホケースに挟み、家を出た。
名刺に書かれた住所を頼りに、目的の場所に向かっていた。近くにいるはずなのに、どうもたどり着けない…。スマホの地図とにらめっこするのをやめ、もう一度、周りを見渡してみた。
あ…!
「もう、大丈夫なんですか?」
近くに駆け寄り、思わず声を掛けた。
「もしかして……。加納さん…ですか?」
頷いた私の前で、彼はほんの少し安心したような表情を見せて、スッと目を閉じた。
「いい香り…ですね」
そう言って、気まずそうに下を向いた彼の顔が、みるみる赤くなっていった。
そして、そんな彼を見ていた私まで、なんだか顔が真っ赤になっていたことに、彼は、気付いていただろうか。