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穏やかな恋  作者: 里桜
7/30

7. 彼女の声と香りと

「カズ、例の女性から連絡あったのか?」

「社長、まだですね…何回も念押ししたんですけど…掛かってこないですかねー」


俺を助けてくれた人。

名前も知らないし、顔も、ほとんど覚えていない。ただ、美咲と同じ香りがして、懐かしさと苦しさが入り混じっていた。


♬♪♬〜

カズさんのスマホが鳴った。

「はい、はい、加納さん…ですね。大樹のマネージャーの山下です。先日は、ありがとうございました。はい、そうですね、こちらにお越しいただきたいのですが、場所わかりますか? はい、じゃ18時に。お待ちしています」


「カズ、今の電話…」

「はい、加納さんとおっしゃるそうです」

「そうか、よろしく頼むな。おい大樹、ちゃんとお礼言うんだぞ」

「…はい」


お礼を言うのに、何の問題もない。あの時、頭をテーブルの角にぶつけずに済んだのは、本当に彼女のおかげだ。

ただ、また苦しくなるんじゃないか、それで嫌な思いをさせるんじゃないか、そう考えると、あまり乗り気になれなかった。


18時まで、あと…15分。


「カズさん、ちょっとコーヒー買ってきます」

気持ちを落ち着かせようと、財布を持って外に出た。ふぅっと一呼吸した時、ひとりの女性が俺の横を通り過ぎた。


「近くまで来てるはずなんだけどな…」

手にしたスマホと、周りの景色を何度も確認しながら、行ったり来たりしていた女性が、俺に気付いて近づいてきた。


「もう、大丈夫なんですか?」


そう言って、ニコリと笑った女性の声に聞き覚えがあった。そうだ、この声だ。


「もしかして……。加納さん…ですか?」


頷いたその女性からは、美咲を思い出させたものとは別の香りがした。爽やかで、でもどこか優しい香りで、あの時のような苦しさは、少しも感じなかった。


「いい香り…ですね」


思わず口から出ていた。

そして、自分で言っておきながら猛烈に恥ずかしくなって、彼女の視界から消えたくなった。



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