2. いつものこと
「分厚いな、この本…ロケまでに頭に入るかな」
昨日の夜、マネージャーに渡された資料と、そこそこ厚みのある冊子を見て、思わず苦笑いが出た。
ロケは明後日だし、今日は午前中時間があるから、なんとかなるかな。
「いつものとこ行くか」
資料と本をバッグに突っ込んで、家を出た。
俺は変装しないし、髪の毛を金髪にしてるから、テレビなんかで見たことがある人は、すぐ気づくと思う。隠すわけでも、隠れるわけでもなく、そのまま。
気付かないうちに写真を撮られたり、それをSNSにアップされたりしてるんだろうけど、これといって困ることもないし、特に気にしない。
そう、あの時以外は…。
いつものファストフード店で、コーヒー片手に資料をめくりながらロケのイメージを膨らませていた。
「今回は、結構コメント求められそうだな」
ひとり言をつぶやきながら、床に置いたバッグから本を出そうとした時、ふと、視線を感じた。
まぁ、いつものことか。
特にその方向を確かめるわけでもなく、本とマーカーペンを取り出し、パラパラとページをめくり始めた。
これが彼女との出逢いだと知るのは、しばらく後になってからだった。