I'm sorry(Part1)
*
「ワン・ツー・ワン・ツー
ワン・ツー・ワン・ツー」
そう小さな声でリズムを取りながら、浅野正之と坂本賢治は、互いの身体を互いの身体に同期させて行った。
「ワン・ツー・ワン・ツー
ワン・ツー・ワン・ツー」
そうして、そうやって互いを見つめ合いながらビートを紡ぐ彼らに、音楽室にいる他のメンバーたちも、徐々にではあるが、自分たちの身体を、彼らに同期させて行った。
「ワン・ツー・ワン・ツー
ワン・ツー・ワン・ツー」
「ワン・ツー・ワン・ツー
ワン・ツー・ワン・ツー」
室内にいるメンバー全員の身体が同期したのを見計らってから、坂本賢治は浅野正之に小さい合図を送った――『タイミングを逃すなよ』と、小さく祈りながら。
「……ワン・ツー・スリー・フォー」
ジャーーーン。
――と、小さいがボリュームを最大にした音楽室のアンプから、浅野のギターが聞こえた。
「ワン・ツー・ワン・ツー
ワン・ツー・ワン・ツー」
ギターの和音が消えるか消えないか、今度はコーラス部隊の出番だ――鉄壁とは言い難いが頼りがいのあるお姉さま方に、坂本賢治は小さく合図を送る――ふたたび、小さく祈りながら。
「ワーン・ツー・ワン・ツー
……ワン・ツー・さん・はい!」
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
練馬区立緑ヶ丘中学コーラス部総勢24名マイナス1名プラス1名、計――結局24名が、一斉にリズムを口ずさみ始めた。
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、
ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
そうして、彼女たちの声が音楽室を――その周囲の空間すべてを満たしたのとほぼ同じタイミングで、今度は、彼女たちの手拍子足拍子がそこに重なる。
『ドゥ、パン、ドゥ、パン、』
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
『ドゥ、パン、ドゥ、パン、』
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
『ドゥ、パン、ドゥ、パン、』
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
『ドゥ、パン、ドゥ、パン、』
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
そう。たとえ、どんなに、《この世界に住む人たちの多くが、大抵いつでも不幸せ》であったとしても、《……と云う事実そのものこそが、彼らのメシのタネ》であったとしても、しかし、だからこそ、我々の、《ショウは続けなければならない》。
「ぱっぱっぱーら、ぱっぱっぱ、ぱらっ、」
「ワン・ツー・スリー・フォー!」
さあ、やっと――終盤戦だ。
*
BGM:『I'm sorry』山崎まさよし