Do you love me?(part2)
「わたしのこと、好き?」女が訊いた。
「うん。きみのこと好きだよ」男が答えた。
「わたしのこと、大好き?」女が訊いた。
「うん。きみのこと、大好きだよ」男が答えた。
向かい合う二人が座る窓の向こうに大きな森が見えた。風が起こり始めているのだろうか、未だ目覚め切っていない日の光に照らされながら揺れている木々の鼓動が聞こえた。
「世界中のなによりも?」女が訊いた。
「うん。世界中のなによりもかによりも」男が答えた。
「ずっと、わたしのそばにいてくれる?」女が訊いた。
「うん。ずっと、きみのそばにいてあげたいんだ」男が答えた。
部屋の奥にあるキッチンからお湯の熱されている音が聞こえた。二人ともその音に気付いてはいるだろうが、どちらもが立つ素振りすら見せずに互いの顔を見つめ合っていた。
「わたしのこと、ずっと見ていてくれるの?」女が訊いた。
「うん。きみのこと、ずっと見ていてあげたいんだ」男が答えた。
「わたしとおしゃべりするの、好き?」
「うん。きみとおしゃべりするの、大好きなんだ」
ベッド脇の目覚まし時計が二人に起きる時間を伝えようとしたので、男は直ぐにそれを止めた。そうして、一瞬離れた男の手を、女はふたたび握り直した。
「わたしの手、にぎるの好き?」
「うん。きみの手をにぎるの、大好きなんだ」
「わたしにさわるの、好き?」
「うん。きみにさわるの、大好きなんだ」
森の奥で起きた風が、彼らの座る窓を強く叩いた。
《生きて行こうと、努めなければならない》女は、ここにいない男のことを想った。
「わたしといて、退屈にならない?」
「ううん。きみといて退屈になんてならないよ」
「わたしのこと、おバカさんだって思っている?」
「ううん。きみのことおバカさんだなんて思っていやしないよ」
キッチンからお湯が沸いたことを報せる音がした。
そうして男は、彼女の手をほどいて立ち上がり、キッチンに向かうと、二人分のインスタントコーヒーを淹れて戻って来た。コーヒーの香りをかぎ、女の髪の匂いをかいだ。
「わたしの匂いをかぐの、好き?」女が訊いた。
「うん。きみの匂いをかぐの、大好きなんだ」男が答えた。
ふたたび、男は女の前に座り、手を握り、女の目をジッと見詰めた――ここで彼女の《呪》に掛けられてしまっては、これまでの努力が無駄になってしまう。
「わたしのこと、好き?」女が訊いた。
「うん。きみのこと好きだよ」男が答えた。
「わたしのこと、大好き?」女が訊いた。
「うん。きみのこと、大好きだよ」男が答えた。
「わたしのこと、けっして裏切らない?」女が訊いた。
「うん。きみのこと、けっして裏切らないよ」男が答えた。
彼らの座るテーブルには、昨夜のディナーの痕跡が、片付けられもせずに残っていた。
すっかり固くなったパンの欠片が、男の目の端に入った。女は、この好機を逃すまいとした。
「わたしのこと、好き?」女が訊いた。
「うん。きみのこと好きだよ」男が答えた。
「わたしのこと、置きざりになんかしない?」女が訊いた。
「うん。きみのこと、けっして置きざりになんかしないよ」男が答えた。
「ウソじゃない?」女が訊いた。
「うん。誓ってウソじゃない」男が答えた。「ウソを吐くくらいなら、いっそ死んだほうがマシだって想っているよ」
しばらくのあいだ二人は、これまでの――昨晩からのこのやり取りを、黙って想い返していたが、とおくの空の上で、ヒヨドリがコウッと鳴くのに合わせるように、互いの額と額を合わせた。
「なら、わたしの言うこと、なんでも聞いてくれる?」女が男に訊いた。
「うん。きみの言うことなら、なんでも聞いてあげるよ」男が女に答えた。「ただし、」と、女の左の耳に自分の同じ耳を合わせながら男が言った。「私と、ずっと、一緒にいてくれ」