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市役所まで(その1)

     *


 見慣れた午後の、ことでした。

 ふたりが暮らすアパートに、日かげの雪が残ってました。

 その日の夢はなつかしく、けれどおぼえてない夢でした。

 彼のせなかが、ゆれていました。

 いつも通らぬ、うろおぼえの道。

 彼が行こうと、言ったのでした。


 かぜのよく吹くくものたつ、とおくの空にカラカラカラと。

 かるい後生車がカラカラと、丘のうえから聞こえてました。

 川の向うで名も知らぬ子が、友を追い掛け駆けて行きます。

 彼もそちらを、向いていました。


 駅の手前で見たことのある、母親が子を待っていました。

 きみが私にくれたその手を、私はふっと見詰めています。


 雲がとおくに流れて行くと、いりひ橋まであと少しです。

 市役所までも、あとすこしです。

 この想いだけ、消せてしまえば。


     *


 プシュ。と、バスの扉の開く音がして、彼女の夢が破られました。『ずっと夢など忘れていたのに――』そう想いつつ彼女がバスを降りると、そこには、せめて今だけは、絶対に見たくない、見せたくない顔が立っていました。

「むかえに来たよ――」と、甘い甘い流れる血よりも甘い声で男が言いました。「一緒に帰ろう」


     *

BGM:『区役所』山崎まさよし

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