『第三幕 第二場』より(その1)
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2017年4月26日。水曜日。夕方。
池のほとりに設けられた円形の野外ステージ。そこに複数人の男女が集まり、思い思いにベンチに腰掛けたり柱や木に寄り掛かっては軽い談笑を交わしている。
しばらくすると、舞台下手側入口に一組の男女が現れ、彼らの談笑も次第に小さくなって行き――そうして役者が舞台に上がった。
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男と女が仲睦まじい様子で部屋へと入って来る。互いに抱き合う二人。
それから女は膝を付くと、男に向かい永遠に変らぬであろう愛を誓う。
男は女を抱き起こすと、その首に頭をもたせかけ、軽い口づけを送る。
その後、男は花咲く堤に身を横たえると、そこで眠りに入ってしまう。
女は男が眠りに入ったのを確かめると、そのままそこを去ってしまう。
間もなく舞台上手から別の男が現われ、男の頭から王冠を取り上げる。
別の男は、その王冠に口づけすると、眠る男の耳に毒液をながし込む。
別の男が舞台から去ると、それと入れ替わりに先程の女が戻って来る。
女は、眠る男に近付くと、彼が死んでいる事に気付き、激しく悶える。
そこに、先程の男が今度は三人の伴連れとともに舞台へと戻って来る。
男は女を優しく慰めると、その間に伴の者たちに屍骸を片付けさせる。
男は豪華な贈り物を手に女を口説こうとするが、女はこれを辞退する。
しかし、屍骸の片付けが終わるに従い女は、男の愛を受入れてしまう。
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「《あれは、何を意味しているのでしょう?》」と、河井保美が隣に座る山崎和雄に訊いた。
「なにって……それは末岡くんに言うセリフだろう?」
「今日、彼、補習で来られないんです」
舞台では、残された男女が下手に引いて、代わりに一人の役者 (の役を演ずる女子学生)が現われて、「《我ら一座のため、又は、ここにて演じられます悲劇のため、御見物の皆さま方には、是非、寛大なるお心を持たれまして、多少の不出来は、なにとぞ、ご容赦頂きますよう》」と、語った。
「《あれは口上だろうか、指輪の銘だろうか》」
と、下手にはけていく女子学生を見送りながら、山崎が訊いた。
「《たいそう、短こうございますこと》」
と、彼女は答えた。すると山崎が、
「《まるで女の恋のようだ》」
と、保美に聞こえるか聞こえないかも分からぬ声で、そっとつぶやいた。