表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/86

お店の壁の絵(その2)

 カラン。と、お店のカウベルが鳴り、新しいお客さんが入って来ました。

 そのお客さんは、豊かな髪を肩まで下ろし長袖丈の黒のワンピースを着ていましたが、お店のテーブル席がほとんど埋まっているのを見ると、少し困った顔をしてから、「カウンター、良いですか?」と、咲希に訊きました。

「はい」と、咲希は答えます。「お好きな席にどうぞ」そう言いながら彼女は、お水とおしぼりの準備にカウンターの奥へと向かいました。

 ワンピースの女性は、カウンターの一番入り口に近い席に座ろうとしましたが、見るともなしに見ていたお店の壁に、一枚の絵を見付けると、どうしたことか、その場に立ち尽くしてしまったのでした。

「あの……?」と、お水とおしぼりを持って戻って来た咲希が、カウンターの前で立ち尽くしているその女性に声を掛けました。「どうかされました?」

 すると女性は、壁に掛けられた橋と川の絵を見詰めたまま、「あの橋の絵……神北川じゃない?」と、咲希に訊ねました。

 しかし、咲希は答えられなかったので、キッチンの中でサンドイッチ用のトーストを切っていた美里にその質問を委ねました。

 すると美里は、「ええ、何年か前、長野へ旅行したときのです」と、すぐに答えてくれました。「たしか、いりひ橋――だったかしら?」

「ゴショシャも描かれてますけど――」と、女性が重ねて訊きます。

 しかし、訊かれた美里にもその言葉の意味がよく分かりませんでした。「ゴショシャ?」と、逆に女性に問いかえします。

 すると女性が、「あの――からからと廻す」と、お日さまでも廻すような手つきで言ってくれたので、叔母さんにもそれが何のことか分かったらしく、「ああ、お寺の裏手から見たんです」と、答えました。

 ワンピースの女性は、その答えに小さくうなずくと、上げていた右手を下ろし、ふたたび絵のほうに向き直りました。

「あの――」美里が訊きました。「その絵がなにか?」

 すると女性は、突然我に返ったような表情になると、「すみません……わたし……」とだけ言って、急に曇り出した扉の外へと出て行ったのでした。

 咲希と叔母さんは少しのあいだ顔を見合わせていましたが、カラン。と、お店のカウベルが鳴り、女性と入れ替わるように入って来た若い夫婦に応対するため、仕事へと戻って行ったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ