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はじめに

 これは大変重要で、とてもよく知られた事実でもあるのだが、この世界には、とてつもなく大きな問題がひとつある。それは、この世界に住む人たちの多くが、大抵いつでも不幸せだ、というものだ。

 この世界に住む多くの人たちは大抵こころがせまく、日々劣等感にうち震えては打ちのめされ、他人を攻撃しては自分を痛めつけ、世を呪い人をにくみ、生まれたことを後悔していた。――中には、生まれて来る前に後悔しているひともあった。

 であるからこそ、この世界に住むとても大変頭の良い人たちの多くは、それぞれの得意分野において、その不幸せを解決するための方策を日夜研究し、提案し、論争したりしているのだが、その努力ややる気や頑張りが新たな不幸せをもたらすこともしばしばあったし、時には大きな戦争などを引き起こすことなんかもあって、結局のところ、このとてつもなく大きな問題は、いまもとてつもなく大きな問題のままに残っている。

 そうして、そんなこんなのある月曜日の朝。アジアの東の外れのすみっこにある島国の、そのまた東の外れの平野のすみっこにある某神経科学研究所の、そのまた東の外れの研究室のすみっこで、インターンとして働いていたある若い薄給研究者は、二日酔いの頭で突然のインスピレーションに襲われると、ミラー・ニューロンの働きに注目し、人間同士の共感能力を飛躍的に発達させる薬と方法論とその制御方法を、その日のうちに考え作り出していた。その日の彼はこう考えたワケだ。『互いが互いのことをもっとよく知り合えば、不幸なひとは減るはずだ』と。この方法は確実で、きっとうまく行くと彼は思ったし、少なくとも生まれて来る前に後悔してしまうひとを減らすことは出来る――と彼は思った。

 ところが悲しいことに、彼のこの考えには大きな勘違いが二つふくまれていて、彼の思いつきは、生まれたことを後悔しているひとを減らすことも、生まれて来る前に後悔しているひとを減らすことも出来なかった。

 これは、そんな不幸に見舞われた若い研究者の物語――ではない。

 これは、その大きな二つの勘違いをめぐる小さな恋と、小さな友情と、そして時々挿し込まれるミステリーとコーラスと、そしてなにより、小さな愛の物語である。

 ……が、しかし、それらを語るには相応の遠まわりと、《一本の長く、曲がりくねった道》を通る必要がある。

 さて、何処から始めたものか?

 そう。先ずは、件の某神経科学研究所からそう遠くない、あるマンションの一室から始めることにしよう。

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