プロローグ
改めて投稿しようと思います!
音楽室から歌声が聞こえる。合唱部の練習だろう。
今年は八月に全国学校音楽コンクールが控えている。
普段はほとんど放課後の練習は無いのだが、コンクールまで残り一ヶ月を切った言うこともあり、最後の追い込みをしているところだろうか。
合唱はいいと思う。いつも聞いていて心が落ち着く。
しかし今は違った。心を靄が覆っていく。
「歌いたい……」
そんなこと言ったってどうにもならない。我ながら恋々としているなと思う。
五年生になった途端、俺、萩原波人は声変わりが始まった。
今まで当たり前のように出せていた声が出せなくなった。
コンクールの練習中だったのに、僕が音を外し続けてしまい、みんなの邪魔になってしまった。
みんなは気にしない、頑張ろう、そう言ってくれていた。
顧問の菊池瑞季先生からは、
「今年のコンクールは厳しいかも知れないけれど、今でよかったじゃない。来年のコンクールは大丈夫でしょう。気にしなさんな。」
僕は不安ながらも歌の練習を続けた。
しかし、今年のコンクールまで半年となって声変わりが終わると、僕はとても声が低くなってしまった。
同声合唱の曲をみんなと同じように歌えなくなってしまって、僕は合唱部を辞めた。
みんなの、特に唯一の同級生部員である鈴木詩のお荷物になりたくなかった。
詩や瑞季先生は僕をどうにかして出そうとしてくれた。しかし詩も最後のコンクールだ。
毎年僕らはあと一歩のところで入賞を逃してきた。今年にかける思いはみんなもとても強いのだ。
そこに僕がいてはだめだ。僕はとても声が低くなってしまった。歌ったところで誰も責めないだろう。
しかしそれが僕には辛い。
僕のせいで入賞を逃したら、僕はどんな顔をしてみんなと接すればいいのだろう。
だから僕は逃げたんだ。
六年生は二人しかいないのに、部活を詩一人に押し付けて。
先生や詩には引き留められた。僕にも今でも未練しかない。
でも、これでよかったはずなんだ。これで───
◆
「これで放課後練習を終わります。ありがとうございました。」
「「「ありがとうございました!」」」
今日の練習が終わった。
みんな友達らと荷物をまとめて帰って行く。
私はいつも放課後練習のときは一緒に帰っていた彼が居ないため、一人で帰る。
彼、波人が辞めてから二ヶ月がすぎた。
波人が辞めると言い出したとき、私は全力で彼を止めた。
私達とは六年間、ずっと一緒にやって来た。毎年悔しい想いも共有してきた。
だからこそ今年は絶対に一緒にコンクールで笑いたかった。
それなのに波人は合唱団から去ってしまった。
わかっている。波人は優しい。私のことを気にしてくれたのだと思う。
だけどそれを私が喜ぶと思うか?
六年間も一緒に毎朝練習をし、一緒の夢を見てきたのだ。
波人無しで賞をとったところでなんの意味があるだろう。
私たちはみんなで一つの声を作り上げるんだ。それは波人もわかっているはず。
それでも───
「波人のバカっ──」
ここにいない波人への文句が止まらない。
そもそも何で急に辞めてしまうのだろう?
六年間も一緒にやって来たのだ。
私に一言相談があってもよいのではないか。
確かに歌えない事は合唱が全てな私達にとっては想像するだけでも耐えられない。
しかし───声変わりだ。
声は変わってしまったかもしれない。
今までのようには歌えないと思う。だけど波人がどんな声になろうが私が彼が歌うことを反対するもんか!
勝手に私に気を回して辞めていきやがって!
波人だって悔しい癖に。
そんなことされて私が嬉しいはずがない。
そもそも私達しか六年生はいないのだ。
私は誰とこの感情を共有すればいいのか。
というか一人で合唱団をまとめていくのは大変なのだ。
それが波人にはわかっているのだろうか。
「波人抜きでコンクールに出てやるもんか!」
そうだ。絶対に連れ戻してやる────
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