転生男装令嬢は理想のカップル成立の為に奔走する【後篇】
副理事長室に入ると、ユングウェイ殿下が机に肘をついてちょっとぐったりしていた。
礼をすると、執務机からソファに移動して来て向かいに座るよう手振りする。
「音楽会の資料です。昨年と一昨年のまとめと今年の予定になります」
「ありがとう。授業中だけどお茶に付き合ってくれないか?」
殿下の言葉に、目立たぬよう控えていた従者が滑らかな手つきで紅茶とチョコレート菓子をサーブしてくれる。
「ちょうど聞きたい事があったんだ。シヴル、今困っている事は無いかな?」
「無いですね。やってみたい事や達成したい事がいっぱいで、忙しいけれど楽しいです」
「でも余計なトラブルの後処理をしてくれているよね。聖女見習い関連の」
「はい。でも、それほどの負担ではありません」
トラブルというか、あのヒロインちゃんは|王太子ユングウェイ殿下に付き纏っている。更に、攻略対象ほぼ全員に絡んで来ている上に、婚約者のお嬢さん達にもちょっかいを出して来る。
お陰で代わりに階段から落ちかけた時は、なかなかのスリルを味わった。ヒロインの代わりにフォルセティ殿下にお姫様抱っこされたから、一部の方々には堪らないスチルになってしまったけれど。
後は代わりに落とし穴にはまったり噴水に落ちたり、破かれた教科書や制服こっそり交換したり、転んで抱きつきそうな時には魔法で回避させたり、等々。
あれ、私結構働いてた。
恐らくというかほぼ確定な気がするけどヒロインちゃんも転生者だと思う。それでゲームではなく現実になった今こそ、勇者クリアを目指していて、ついでに逆ハーエンドを狙っているんじゃないかな。無理だと思うけど。
あ、でも結構早いうちに私には絡んで来なくなったから、シヴル抜きで勇者逆ハー?仲間外れとかちょっと嫌な感じ。
紅茶とチョコレートはとても美味しい。
「困った事があったら相談して欲しい」
「ありがとうございます。私では役不足かと思いますが、殿下のお役に立つ事があればお申し付け下さい。解決出来なくても、話すだけでも気晴らしになりますし、聞いても構わない事があれば聞きます」
「そうだな。でもこうやってゆっくり茶を飲むだけでも気は休まるな」
「そうですか」
確かに何もしない時間って大切だと思う。
ちょっと休んだらまたフルスロットだけど。
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男女の仲を近づける手段の一つはデートだと思うの。前世ではモテない私ですが乙女ゲームで基本はバッチリです。
なので、放課後デートを演出するキューピットシヴルです、こんにちは。
婚約者のいる男女が別の異性と2人きりになるのはマナー違反。で、あれば2人きりでなければいいじゃない。私の知略が冴えまくって凄い。理想カポー2組と私、この5人で出掛ければ問題は無い。城下町散策、港見学、近場でピクニック、ちょっとそこまで乗馬、港湾ギルド見学、王立図書館での勉強会、等々。
後は組み合わせをうまく変えつつ進めれば、と作戦実行しているのだけれど、
「うわあ、精巧なガラス細工ですね。これはブレアス国から輸入しているんですか」
「そうですわ、ブレアス国はガラス鉱石がたくさん取れますが、大きな産業が無いのです。技術を売る国ですわね」
「へレーネ嬢は、どのブレスレットが良いと思われますか?」
「そうね、私は百合がすきよ」
「すみませーん、この百合のブレスレットにへレーネ嬢の瞳と同じ色のアメジストを入れて下さーい。へレーネ嬢、いつも僕に色々な事を教えてくださるお礼に受け取って貰えませんか?」
「まあ、嬉しいけれど弟君に負担をかけるのは悪いわ」
「僕も家の仕事を手伝い始めたのです。好意に対してお礼をさせて下さい」
何故か、毎回へレーネとシャルナクが付いて来る。今日はグレイヴとリーヴァ、フォルセティとヨリーズを「街で売れている物をチェックして動向を把握するのは大切だよね!」と言って散策しているのだけれど、一番盛り上がっている。
「お前の弟、レカシュー嬢との距離が近く無いか?」
「ダメって言っているのに聞かないの。反抗期かも」
「それがな、ユング兄さんの許可を得ているらしい」
「何だと⁈ユングウェイ殿下の心はどれだけ広いんだ?」
うちの大天使が11歳にしてチャライケメンです。ユングウェイ殿下も婚約者と宰相の息子に甘すぎぃ!確かに、18歳の公爵令嬢と11歳のちびっこのキャッキャウフフを気にする21歳の王太子だったら嫌だけど。
ただなー、うちの大天使が学園内をフリーパスで歩き回り、理事長室でお菓子貰ったりしているのは宜しくない。私が止めてもみんなで甘やかすし、殿下に「シャルが遊びに来ると気が休まる」と言われたら止めきれない。
結局、男子3人でリーヴァとヨリーズに似合う髪飾りを割り勘で買ってプレゼント。シャルは上目遣いで「着けて欲しいな」とへレーネお願いしてブレスレットをその場で着けた上に流れる様に手の甲にキスしていた。イケメェン。
「あー、フォルセティ様、グレイブ様、シャルナク君、こんにちは〜っ」
「スヴェル嬢、こんにちは。僕の兄様も一緒だよ。見えなかったですか?」
「あら、失礼しました。シヴル様もこんにちは。今日は皆さん何しにいらしたんですか?私は新しいカフェで友達がウェイトレスをしてて、お店に誘われたんですぅ。フォルセティ様たちもどうですか?」
「みんなで行ったら目立っちゃってお店のオープンの邪魔になっちゃうから今日は無理だと思います。ね、兄様」
「そうだね」
「じゃあじゃあ、フォルセティ様達3人だけでもぉ」
貴様、その3人に含まれるのは、私ではなく大天使ですよね、わかります。そしてこれは城下町イベントですね、わかります。
「殿下が一番目立っちゃいますよ、スヴェル嬢。目立たない様に護衛の人達も控えてるし」
11歳のイケメェンが通せんぼみたいにヒロインちゃんの前に立って、背中に回した手で左右を指差してぴこぴこ動かす。これはつまり、僕を置いて君たちは逃げろ、というハンドサイン!フォルセティとグレイブを見ると2人とも小さく頷く。
さり気無く理想カポーで左右に逃げられる様にレディ達の位置を誘導する。「んー、確かに僕気になるな」「でしょう!」と大天使の誘い受けみたいな言葉にヒロインちゃんの両手が大天使の肩にのった瞬間、大天使が手を左右に広げた。
「今だっ!」
私の言葉に理想カポーが左右の道に分かれて走っていく。よーし、仲良くなーれ。
「ちょっと、何で逃げちゃうのよっ!」
慌てて私達の脇をすり抜け左右をキョロキョロと確認して、お目当ての2人が見つからなかったらしいヒロインちゃんに睨まれた。
ヒロインちゃんも撤収し、取り残された私と大天使とへレーネ。
「兄様、兄様、今スヴェル嬢が言っていたオープンしたばっかりのカフェに個室取ってあるんですよ。3人で行きましょーっ!」
ぐいぐいと手を引っ張られ、連れて行かれたカフェの個室には輝かんばかりの笑顔のユングウェイ殿下がいらっしゃった。おうあ、大天使のコミュ力の高さよ。
何故か殿下の隣に座らされ、大量のケーキやチョコレート菓子を勧められるミニゲームの様な状況。そして何故私の正面にへレーネが座って殿下の向かいが大天使なのかな?本来なら私と大天使の位置が逆だよね?殿下は大天使と婚約者が並んでいるのを見るのが好きなのかなかな?
今日の仲良し企画は湾岸コース。珍しくへレーネと大天使が付いてこなかった。これはこれでちょっと怖い。
海の見えるおしゃれカフェでディリングとイルス、フィアラルとフィリギアの理想カポーとお茶を飲んでいた。窓から見えるのは、青い空、青い海、美しい帆船、無骨な軍船、マッチョなシブオジイケメン、大天使、ヘレーネ、ロヴィーナ?
二度見三度見したが変わらない。シブオジがへレーネの父上であるレカシュー海軍公である事に気付いたが、何故そこに大天使とロヴィーナが?
理想カポーが良い感じなので席を立つ訳にはいかないし、と思って見ていたら4人は笑顔で歩いていってしまった。
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6年生の卒業式も近くなり、私の理想カポー大作戦も成果が見えて来た、と言いたい所なのだけれど、実際はユングウェイ殿下の秘書として大忙しになってしまった。母様と姉様達は「任せて任せて!」と自信満々で、詳しい状況を教えて貰えない。一度父上にみんなの婚約状況を聞いたら「いいか、家長は男だが婚約や結婚というものは女達の戦いだから、男子が手を出すと死ぬ」と悲壮な表情で言われたので聞かなかった事にした。女、怖い。いや、一応自分も女だけど。
朝から授業も出られず殿下と副理事長室で卒業式後のパーティー企画を確認していると、リーヴァが1人でやって来た。
「シヴル、私、私ね、もう黙っていられませんわ!」
「どうしました?うちのシャルが問題を起こしましたか?それともスヴェル嬢がまたやらかしましたか?」
「アルヴィス嬢、シヴルに関わる話だったら」
「ちょっと待ったっ!間に合ったか?殿下大丈夫でしたか?」
「ああ、グレイブ。アルヴィス嬢を連れて行ってくれ」
「シヴル!僕は神の名にかけて秘密を黙ってはいられないよ!」
「ディリング、何か問題でも?」
「待って下さいませっ!ディルング様、さあ教室に戻りましょう!」
「いや待って下さい、イルス嬢、シヴルだけが」
「戻りますよ!殿下失礼致しました!」
「セイフリム卿!騎士として黙っていられないっ!」
「あ、兄様、今すぐ部屋を出ますから、さあヨリーズ嬢、卒業式の警備の話をっ!」
「シヴル、知っているか?今見えている万物はほんの一部にしか過ぎず、殆どの部分は」
「ベストラです、失礼します。直ぐ連れて行きます。フィアラル様、図書館に新しい魔導書が入ったそうですよ」
何だか騒がしい。ユングウェイ殿下を見れば、爽やかな笑顔で返された。園庭を見れば卒業式に向けて植え込みを美しく整えている。私も頑張って働かないと。特に今年は第二王子のフォルセティ殿下の卒業式だから万が一の事があったら困る。
「ユングウェイ様ぁ、お仕事お疲れ様ですぅ。手作りケーキを持って来ましたぁ」
「スヴェル嬢、何度も言うが手作りは受け取れないんだ。毒味や調理中の見張りも難しいからね」
「でもでもぉ、私は聖女見習いですからぁ、聖なる力が付与されてて毒なんか入らないんですぅ」
「わかった、では従僕に渡してくれ」
「はーい。後お仕事お手伝いしますぅ」
「結構だ」
「でもでもぉ、シヴル様でも出来るお仕事ですよね」
あ、追い出された。にしても、最後きっちりディスっていったな。突っ込むと疲れるから無視して仕事してたけど。ん?
「殿下、何で私のサンドイッチ食べてるんですか?」
「ケーキと聞いて空腹だと気がついた。軽食を頼むと時間が掛かるだろう。代わりのサンドイッチを頼んだから大丈夫だ。そのうち届く」
「いやそれ私が家で適当に作って来たやつですし、毒味の無い手作りは食べないのでは無かったのですか?」
「へえ、シヴルは自分で料理出来るのか」
「宰相は何でも出来るべきと言うのが我が家の教えなので。大体毒味しなくてもいいのならスヴェル嬢のケーキを食べたら良いじゃないですか!」
「セイフリム様、ご覧下さい」
従僕がテーブルに置いたケーキの箱を開ける。
……。デロリと広がる生クリームの隙間から覗く、焦げたスポンジ。上の載せた苺はバラバラの方向を向き、そっと添えられたマジパンのウサギ人形の首がもげ落ちている。
作品の出来はおいて置いても、何故いつ渡せるかわからない状況で生物を持って来た。これは食べられない。
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「へレーネ・レカシュー公爵令嬢、この様な場所で申し訳ないが婚約を解消させていただく」
「はい、ユングウェイ殿下。婚約解消お受けします」
ぶひゅっ!
卒業式の後の園庭でのガーデンパーティーでユングウェイ殿下が笑顔で爆弾発言を投下し、笑顔で返すへレーネ。殿下の横にいた私の口から飛び出すレモネード。
本体が濡れたので、外して拭く。夢だ、夢に違いない。こうやって時間が過ぎればきっと無かった事に……。
ふと見ると笑顔でへレーネに寄り添う我が家の大天使。約120センチ。へレーネ嬢が160位だから綺麗な親戚のお姉様と僕ちゃん。
そしてキラキラとしたエフェクトを飛ばしながら高速で走ってくるピンクツインテール!
思わず殿下を庇って手を広げ、目を瞑って衝撃に耐えるべく腹筋に力を入れる。
が、数秒経っても衝撃が来ない。そっと目蓋を開くと、ティルギン騎士団長に捕獲されているイナンナ。「めっ!」と叱っているルナゲス大司教。ティルギン騎士団長は卒業生であるグレイブの父上だから、この場にいてもおかしく無いけれど、ディリングは4年生だからお祖父様がいらしているのは何故だろう?
「集まった者達にここで大切な発表がある。我が息子ユングウェイから通達する故、よく聞く様に!」
フォルセティ殿下の卒業式に参加された王様が笑顔で宣言なさった。そちらを見ればたくさんの貴族が来ていて、うちの両親も揃っているが、母様は笑顔で手を振ってくれているのに父様が視線を反らしまくっている。何をやらかした?しかも4姉様が揃っている。
「王族や貴族の婚姻は正当な理由があるが、此度、整っていた婚約を見直し最適の組み合わせとする事になった。これは、セイフリム宰相から話が上がり、関わる家に通達済みであり、王が承認したものである。先の私とレカシュー令嬢との婚約解消もその一つだ」
「ちょっと離しなさ!むぐぐぐぐ!」
「第二王子フォルセティとナンナル嬢、セイフリムとアルヴィス嬢、ティルギンとスヴィウル嬢、ルナゲスとヴィンダル嬢、レクストとベストラ嬢の婚約を解消する。現在の状況を検討した結果、フォルセティとヴィンダル嬢、ティルギンとアルヴィス嬢、ルナゲスとベストラ嬢、レクストとナンナル嬢の婚約が成立した」
ええと、こうなってああなってこうで、理想カポー!母上サイコー!さっきから我が家の女性陣が最高の笑顔なのは完全勝利だからですね!素敵です!死ぬ、死ねる!尊死。
…………。
あれ?王太子妃は?
ぐるんと首を回して陛下を見れば、目があった後反らされた!何故だ?何故なの?何故なんだ?
「陛下、私から報告があります宜しいでしょうか?」
「うむ、先にあった話だな。構わん」
「ありがとうございます。我が家の娘、ヘレーネとユングウェイ殿下の婚約が解消になったが、ヘレーネには新しい良縁を賜った。セイフリム宰相の長男シャルナク卿だ」
「ええええええ!」
「敬愛するヘレーネの隣に並んでも恥ずかしくない様にこれからも頑張るから見守っててね」
「シャル、こんな年上で本当に良いの?」
「それは僕が年下だからいけないって事になっちゃうから言わないで欲しいな。僕はヘレーネの全部を愛しているよ」
私の叫びを無視して、ラヴラヴ状態のヘレーネと大天使。そして祝福する周囲。え?何で?みんな知ってた?
「更に、この歳になって恥ずかしくもあるのだが、ロヴィーナ・スヴィウル嬢が私のプロポーズを受けレカシュー家に入ってくれる事になった」
「レカシュー卿、みんなの前で恥ずかしいですわ」
「ロヴィーナ嬢、私みたいな年寄りでも本当に良いのか?」
「年寄りではありませんわ。渋くて大人の魅力に溢れていますわ。私と一緒に海運業にも邁進していきましょう」
ヘレーネと弟がショタオネで、ロヴィーナがシブオジ萌えで、あうあうあー。
でも理想カップルが婚約して、キラキラで、スチル満載で私的にエンおね完全コンプリートエンディング。
この素敵な光景を目に焼き付けたからもう大丈夫。お家に帰ろう。脳内再生余裕で帰って寝て夢でも楽しもう。
ふらふらと出口を目指し始めると、後ろからユングウェイ殿下に腕を取られ、バックハグ体制になってしまった。
「ふおおおおおおおおお?何も悪い事シテマセンヨー?」
「シヴル、どこに行くつもりだ?」
「お家帰ってみんなの幸せを神に感謝しながら寝ます」
「これから私にとって一番大切な話があるからもうちょっと付き合ってくれ」
殿下の一番大切な話なら聞くしかない。新しい婚約者同士が手をとったり、笑顔を交わしたりしている姿を眺めつつ、殿下からの捕獲状態を意識しない様に頑張れ私。
「先程、私の婚約解消を行ったが、新たな婚約者を宰相の5女、シヴィリル・セイフリムとする。セイフリム宰相は後継がいなかった上、5女が生まれた時、大聖堂から娘をそのまま育てると不幸が起きる予言を受けた故、息子のシヴルとして育てた。予言は18歳で解けたと大聖堂から報告があった。次代の宰相として18年間教育を受けて政務を補佐して来たセイフリム嬢なら王太子妃として十分である」
両親と姉達を見れば目を反らしたままの父とぷーくすくすしている母と姉達。手を叩いている喜んでいるみんな。
って、何でみんな驚いてないの?私、性別を偽ってたんだよ?そんな予言は無かったよ?父が変なスイッチ入っただけだよ?今男子生徒の制服だよ?あれ?今気がついたけど男子生徒を副理事長がバックハグしてる状態じゃないですかー⁉︎
そのままずるずると園庭の奥にある東屋に連れて行かれる私。何故か温かい視線を向けて来るだけのみんな達。
「何か聞きたい事があるんじゃないかな?」
「その前に膝の上から降ろしていただけませんか?それから腕を離していただけませんか?」
「何か聞きたい事があるんじゃないかな?」
「膝上抱っこ状態は恥ずかしいのですが」
「何か聞きたい事が」
「わかりました、聞きます。私が女性だという事が問題になっていないのは何故ですか?そして何故手を撫で回すのですか?」
「入学して直ぐにわかったよ。ちょっとよく見ればわかるよね。セイフリム家に行って事情を聞いて、問題にならない様に大司教にお願いした。卒業式の前にシヴィリル以外に通達しておいた。びっくりした顔が可愛かったよ。手を撫でるのはそこに手があるからだね」
「はあ?あ、ええと、今回の婚約解消と婚約は?そして何故頬に接触を?」
「君の家から母に話が上がって来てね、納得のいく内容だったから許可されたよ。シャルナクは個人的に私の所に来て、レカシュー嬢と婚約したいと直談判して来たよ。私が君を気にしているのを感じていたみたいだね。スヴィウル家にルナゲス家との婚約解消の話をしたら、スヴィウル嬢がレカシュー公と婚約したいと訴えて来たから陛下が許可したよ。頬にキスをするのは頬がそこにあるからだね」
「わかりました、離して下さい」
「何でかな?私達は婚約者なんだよ。そうか、順番がおかしかったね。シヴィリル嬢、私ユングウェイ・ウルヘイムと結婚して欲しい。まあ、して欲しいも何も既に王命で婚約の許可をとっているからね。逃さないよ」
「うええええええ!殿下、落ち着いて下さい。私ほら、男子生徒の中にいてもわからない位魅力がありませんので」
「私は直ぐ気がついたと言ったじゃないか。それにね、女性的な魅力にあまり興味が無いんだよね。だからシヴィリルの控えめなスタイルとか、ただ結んだだけのあっさりした髪型とか、化粧をしなくても平気な中性的に整った顔とかが好ましいと思うんだよ。それとね、一番重要なのは眼鏡だね」
め、がね、だと?
思わず外して眺めてしまう。
「その眼鏡を外した瞬間の視界が悪くなった時のちょっと不安そうな、焦点を合わせようと眇めた瞳が本当に美しいよね。勿論掛けている時も素敵だよ。ああ、勿論、眼鏡を掛けていない君も愛している。視力が弱いのに眼鏡を掛けられない君を守りたいと心から思うし。卒業まで待てないな、今直ぐ結婚式の準備を始めよう」
「わ、私の意思は?」
「王命だと言えば早いけど、君は私を嫌いではないよね?無意識だと思うけどシヴィリルは普段から「好き、主に顔と全部が」とか「素敵すぎて死ねる」とか「殿下が尊すぎて語彙が死んだ」みたいな独り言を結構漏らしてるよ。私も君の全部を愛しているから相思相愛だな」
それから王太子の結婚式準備は最速で行われ、卒業式前に私は王太子妃となった。女性として王太子妃としてのマナーをスパルタで叩き込まれたのが一番キツかった。
騙していたのに男子生徒から女子生徒になった私にみんなとっても優しかった。ずっと「女っぽいな、でも胸貧相だしな」と思われていたっぽいのが悲しい。
ヒロインちゃんは「こんなのバグよ!」と叫んでいたけれど、学園に通っていた聖騎士見習いの男子生徒達に見張られる様になったら、一気に元気になって「そうよね!バグってるんだから好きな相手を狙えば良いわよね!」とご機嫌で聖女の修行も頑張っている。