姉を守るために訓練をしよう
今日は間に合った・・・明日も間に合うかな?
普段、俺は家で何もしていない。何か手伝おうとしてもその時には既に終わっていたり、難しすぎてできなかったりと色々だ。手伝いすることはないかと姉に聞きに言っても「レイは優しいね〜お姉ちゃんの手伝いしようとしてくれて。でもね〜お姉ちゃん、レイにはまだ遊んでてほしいな〜って。働くのは大変だからね〜」と言われてしまう。
なんだよ弟思いかよ!?ああ〜健気すぎて可愛い。もう結婚しよ。
でも悲しいかなそんなことできないのはわかってる。だからせめて俺以外の男が寄り付かないようにしようそうしよう。
だがそれを行うにおいて具体的な案・・・案・・・そうか!やはり手っ取り早く『実 力 行 使』すればいいのだ。よし、そうと決まれば早速トレーニングの開始だ!
まず何を鍛えるか・・・ってそういえば魔力と運以外の項目が俺って最低値なんでしたね・・・ちくしょうめっ!
っく、こうなったら唯一最低値じゃなく、かつ伸び代がある可能性がある魔力を鍛えよう。
ふふ、姉を邪悪な魔の手から多彩な魔法で守り抜く俺・・・カッケェ!今から将来が楽しみだ。
そうと決まれば特訓だ。千里の道も一歩から。努力し続ける天才とはいつの時代も無敵なのだよ。
俺は小屋を出て裏の少しひらけた庭に出る。ここは洗濯物を干す時にいつも使っているが今はない。つまり今ここでは多少やらかしても大丈夫というわけだ。よし、まずは火の魔法を出してみよう。呪文とか知らんけどまぁ、転生チートかなんたらで魔法適正爆上がりの俺からすれば余裕っすよ、余裕。
「てことで、いでよ!ファイアーボールッ」
両手を前方に突き出し、定番の言葉を唱える。しかし待てども待てども訪れるのは静寂ばかり。そして最後にやってきたのは羞恥という名の顔が熱くなる魔法だった。
「あ”あ”ー、恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずいっ」
空気読んでくれよ魔法!今の俺ってなんか変なことを自信満々に叫びながら手を前に突き出したヤベェやつじゃん。ああ、こんなはずじゃなかったのに。ほんとなら今頃は「さっきのはメ◯ゾーマではない。メ◯だ」って感じで!いきってたはずなのに!いやー、でもよかった。こんな恥ずかしいところを姉に見られなく・・・なんか嫌な予感がする。
恐る恐る、嫌な予感がする方に振り向く。多分油が刺さってない機械のようにギギギと首を回しているんだろう。そう思えるほど自分でもはっきりとわかるくらいゆっくりとしか向けなかった。
振り向いた先には、微笑ましい物を見るような目で俺を見つめる姉の姿があった。
お、終わった。今までずっとクールな弟レイとして姉の前で生きてきたけど、もうだめだ。こんなイタイところを姉に見られたらきっと「は?レイってそんなイタイこと平気でできる子だったんだ。へー。あっ、もう今日から自分で生きて行ってね。もちろんここからも出て行ってね」と蔑んだ目で言われるかもしれない。いや、それはそれで・・・・ぶひ、ごちそうさまです。
そんな気持ち悪い妄想をし始めたレイを、リナは「ま〜た何か妄想し始めた〜」と、若干自分が無視されているように感じて少し拗ねる。その妄想が気持ち悪いほどリナにしか向いていないと気づかずに。
だがこれは割とよくあることなのでどうしたら構ってもらえるかは知っている。
リナは頭が別の世界に飛んでしまった弟を呼び戻すために後ろから抱きついて耳に優しくふーっ、と息を吹きかける。
「あひゅん」
「ねえ、レイ〜。何してるの〜」
いきなり耳元がくすぐったくなり、さらに囁やくような甘い声で脳がとろけそうになる。しかし姉の問いを無視するのは姉をこよなく慕う弟として、そして一男として無視するわけにはいかん。
溶けて無くなってしまいそうな脳みそをなんとか凝固させ、俺は先ほどまでしていたことを包み隠さず話す。さっきのファイアボールについて詳しく聞かれた時は羞恥で死にそうになったが。
「なるほどね〜、つまりレイは魔力を使って魔法を使いたかったわけか〜」
「はい、そうです」
敬語になっているが、これは羞恥からくるものだ。
あー、全部洗いざらい聞くとか俺の姉、鬼悪魔可愛い!「どうしても話さなきゃだめ?」って聞いたら、わざわざ目線合わせるためにしゃがんできて「どうしてもってことでもないけど〜、お姉ちゃん、レイのことい〜っぱい知りたいから。だめ?」とか上目遣いで言われたらさあ、理性とか何もかも吹っ飛ぶじゃん!?だから言ったあとでめっさ恥ずかしくなってるってわけ。
まあでも、姉が使い方を教えてくれるらしいからありがたいんだけどね。
現に今はいつもの甘々な顔じゃなくてキリッとしたかっこいい表情をしている。これからこれを真面目モードと呼ぶことにしよう。
で、現在進行形でその真面目モードの姉が講義をしてくれている。
「魔法っていうのはね、レイが言ってたその、なに?呪文?とかじゃなくてね、自分が頭のなかで想像したものを具現化させることを魔法っていうの。ほら見てて」
そういうと姉は右手を持ち上げて目を閉じる。すると一瞬のうちに元の世界で言うスナイパーライフルのようなものが現れる。
「へ?」
間抜けな声が漏れる。なんかこうもっと幻想的な感じで手元に光が収束してきて実体化するものだと思ってた。てかスナイパーライフルって・・・ファンタジーなら、こう、もっとさ、魔法の聖剣!とかみたいな感じのかと思ったのに。しかもまずそもそも物体っておかしいだるぉ!?火の玉とかそう言うの期待してたのによぉ・・・
そんな動揺を知らず、姉はどんどん解説を始めて行く
「これが一般的な魔法。魔力で、想像したものを具現化すること。レイが言ってた火の玉を飛ばしたりするのは一部のごくごく限られた才能を持つ人がたくさんの努力をすることによってできるの。って、ごめんね、ちょっと難しかったよね。私説明下手だからなー」
「ううん、大丈夫。だいたいわかった」
相手が3歳児に理解できるような説明でないが、残念ながらここにいるのは既に30を超えた俺。ならば理解も可能と言うもの。
だが姉はそんなことは知らずただただ3歳の俺がこのことを理解できているとさっきの言葉で信じ込んでまた抱きついてくる。
「その年でこんな難しいこと理解できるなんて〜、うちの弟は天才だ〜。偉いね〜すごいね〜よしよしよし〜」
「えへへ〜、それほどでも〜」
本当にそれほどのことでもないのだが、姉の抱きしめ頭なでなでは素直に嬉しいので抵抗せず撫でられる。あぁ〜ここが天国。
と、幸せな時もいつかは終わり、満足げにした姉が離れるのを名残惜しく感じながらも早く自分も使って見たいとウキウキな気分を隠せないでいる。なんせ初めての魔法だ。使えるとわかった以上やってみないことはだろう。
俺は姉を真似して手を持ち上げる手のひらを前方に突き出す。
「お、早速使ってみるの?頑張れ〜」
姉に応援された。これは何としても成功させなければ!!
先ほど姉もやっていたスナイパーライフルを生成する。前世からの知識でぼんやりと覚えているし実際にさっき見たから多分できるだろう。
お、なんか体が少しだるくなってきた。ふぅ、これが魔力が減るってことなのかな?
それを裏付けるように先ほどと同じような銃の持ち手が生成されてゆく。
おおーっ!?すごいしゅごいしゅげえ。手に触れている部分にはちゃんとひんやりとした硬い鉄の感触が伝わってくる。
これってもしかして魔力を流し込む量を増やして行けばもっと早く生成できるのでは?そうと決まれば行動開始!
俺は流れるような魔力の流れを早めるように意識する。すると気だるさが急に増した。
「ん?あ、レイまって!?」
「へ?」
急な静止を求める声に応じようとするも、それより先に急に体の意識を支える芯がぽきっと折れる。支えを失った建築物が崩れ落ちるように体が崩れ落ちる。なんの抵抗もできずに顔から倒れこみ、痛みが全身を走る。その時手に持っていたスナイパーライフルの持ち手が手を離れ数秒後ガラスが割れたときのように消滅する様子が視界に映る。
それを最後に意識は瓦礫に埋もれるように消えていった。
「レイッ!?」
私は急に倒れ込んだレイの元に駆け寄る。幸いにも周りに突起したものはなく、打撲程度で済んだようだ。
「ごめんねっ、ごめんねっ、お姉ちゃん、ちゃんと見ていてあげれてなかった」
おそらく倒れ込んだのは魔力欠乏によるものだと思われる。その証拠にレイの体は少し青白く発光しだし、周りの魔力を吸い込んでいく。これは魔力が欠乏した時に体が起こす、一種の緊急処置のようなものである。
リナはレイを抱き上げて急いで家のベッドに寝かせる。
魔力欠乏の”第一症状”であるこの状態はそれ以上魔力を使わなければ大丈夫な状態であり、初心者にありがちなミスであるのだが、リナは最愛のレイを自分のミスで傷つけてしまったことを酷く後悔している。
あの時もっと早くレイがとる行動を予測しておけば、もっとレイの魔力の総量を調べておき、ちゃんと自分が魔力管理をしていれば、などなど反省点がいくつも出てくる。
「ごめんね、ごめんね」
と、その声はすすり泣くような声とともに一晩中続いた。
イメージしてものを生成する・・・イメージするのは常にさゲフンゲフン。