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井の頭公園にて

作者: 後藤章倫

 確かに英語を話していた。流暢に会話をしていた。七名の謎の外国人の輪の中で、アコースティックギターを弾きNirvanaを歌っていた。


 あの日は朝から吉祥寺駅に出向き、オグちゃん、オグちゃんの彼女(名前は覚えていません)、畑中、鳥出、チャッピーと合流した。

 目的は井の頭公園で、気心知れた此の仲間達と花見をする為だ。駅前のストアで、ビイル、焼酎、ウヰスキー、氷、紙コップ、スルメ、ピイナッツ、イカの姿フライ、ポテトサラダ等を買い込み井の頭公園へ。

 午前十時半過ぎより酒盛りを始めた。少し肌寒かったが天候も良く、桜も八分咲で絶好の花見日和だった。最近の出来事等を話題に楽しく酒を飲んでいると、我々の酒宴の近くに女性五人組がやって来て、此方も楽しそうに花見を始めた。

 女性のみの宴会等をやっておると、当然訳の分からぬ男共が寄って来るもので、ご多分に漏れず二人のどう仕様も無い男が寄って来た。

「何しとんのぉ?」

阿呆である。何しとんのぉ?って花見に決まっておるではないか。女性達も純粋に友達同士の会話を楽しんでいる様だったので、この訳の分からないヤンキーみたいな二人組の介入に迷惑顔を隠せなかった。

「一緒に飲もうや、なぁ?なぁて」

「すみません、大丈夫なんで」

断る女性達。それでも

「そう言うなって、遊ぼうや」

と阿呆二人。女性達は困って居た。近くにおる自分達も嫌な気分に成って居た。

 女性達の輪の中に無理やり入ろうとするヤンキーに我慢が出来なくなり

「コラッ、ボケが。嫌がっとるやんけ、分からんのか?」

と怒鳴ってしまった。 ヤンキーは此方を睨みつけ、向かってこようとしていたが、どう考えても多勢に無勢、ふてくされて何処かへ立ち去って行った。

 別に此の事柄をきっかけにして彼女達と仲良く成ろう等という下心は無かった。それからはヤンキーの事など全く何事も無かったみたいに自分達の花見を楽しんで居た。

 酒も進み良い気持ち、身体のタンクも満タンに成ったので、公園内の公衆便所へ行き放尿しておると、不意に後ろから

「おい」

と声が聞こえ、肩を掴まれた。振り向くと、すっかり忘れていたさっきのヤンキーが二人立って居た。

 小便は止まらない。小便は止まらないのだが、この喧嘩腰の行為に怒りが込み上げ、放尿した状態で身体を反転させてやった。当然ヤンキーAに小便が降り注ぎ

「うわっ」

等と情けない声を出している。

「嗚呼」

とか言っている。そのまま振りかぶり、小便を気にしているヤンキーを殴り倒した。ヤンキーAは、小便塗れの床にすっ転んだ。怒りは収まらず、Aの裏股を蹴り上げた。

「ギャン」

と悲鳴をあげヤンキーAは、うずくまった。

そして、ようやく自分のズボンのファスナーを上げた。

ヤンキーBは、居なくなってた。

胸糞悪かったが、自分の酒宴に戻って飲み直す事にした。

 公衆便所から帰ってきたら、目を疑う光景が飛び込んで来た。なんと近くで花見をしていた女性達のうち二人が、自分達の花見席で楽しくしていた。しかも、畑中、チャッピーと、なんか良い感じに成っておるではないか。

 なんじゃこりゃ?公衆便所で、訳の分からないヤンキーに絡まれている間に、こいつ等は何てハッピーに成っておるのよ?

 オグちゃんは彼女と来ているし、鳥出はゲイである(ゲイだからと言っても、そんな事は全く関係無く気心知れた親友である)こうなったら向こうに居る残り三人に声をかけて仲良くなろうと思ったが、いや待て、其れではあの訳の分からないヤンキー達と全く一緒ではないかと思い留まった。

 畑中が

「ハナちゃんと、香織ちゃんだよ」

と紹介してくれたが、もう自分には入り込む隙など微塵も無く

「よろしくね」

と気のない挨拶をした。すると聞いてもいないのにハナちゃんが笑顔で

「向こうの三人はね、もうすぐ彼氏と合流だから」

もう、こうなると全く面白く無く、かといって酒が入っている鳥出と仲良くするのは少々危険な感じがするので、仕方無く公園を散歩する事にした。

 何処も彼処も花見、何処も彼処も酔っ払い、何処も彼処も男女がワイワイ楽しそう。嗚呼もう帰ろうかと思った矢先、最悪の光景が目に映った。

 さっきの公衆便所から消えたヤンキーBが四人程の仲間らしい奴らと何かを捜している様だった。奴らが捜しているのは、たぶん、いや確実に自分だろう。此はちょっと嫌な展開だなと思ったが、あの中で、自分を認識出来るのはヤンキーBだけであって、他の四人は、自分を知らない。しかもあいつは、あの公衆便所でヤンキーAを殴り倒した際に一瞬で逃げる様なヘタレである。イケると確信した。

 そのまま正面から歩いて行った。ヤンキー軍団まで、あと五メートルという距離に来た時、ヤンキーBが自分に気付き、他の奴らに、其の存在を伝えようと顔が強張っていた。

 そこで、ヤンキーBを目で殺した。ヤンキーBは、変な顔に成っていて、口だけパクパクとしていた。

自分とヤンキー軍団は普通にすれ違った。

 阿呆だなやっぱりと思ったが、あのヤンキーBは、自分の酒宴の場所を知っている。という事は、あのヤンキー軍団は、其処へ向かって、ひと暴れするだろう。するとデロデロに酔っ払ったチャッピーや畑中は喧嘩に成らないだろう。仕様がない、引き返すかと自分の酒宴へ向かった。

 到着すると、もう何か騒ぎが起きている。鳥出がヤンキーの一人に抱きついていた。

「離れろボケ、気色悪いんじゃ」

「いーやーよー、あんたタイプだから」

鳥出は完全に酔っ払っていて、本性丸出しに成って居た。すると他のヤンキーが、鳥出の背中を蹴った。

「何しとんじゃ、糞餓鬼が」

オグちゃんが行った。仕方ない行くかと思った矢先に三人の屈強な男達がヤンキーを投げ倒し始めた。

 何だ?あの外国人三人は?良く見ると、ハナちゃんと香織ちゃんが居た女性五人組の花見席と自分達の花見席が合体しているではないか。何やっとんじゃい、己等は。

 という事は、あの屈強な三人の外国人は、残り三人の合流した彼氏という事だな。という事は、行かなくて良いみたいだな。ヤンキーは二人程、目の前の池に投げ込まれた。

 「ヒンガラモンゲンギョー」

と絶叫し、池に飛び込む者。鯉を捕まえようと池に入る者。ベロベロに酔っ払って、別に入りたくも無いのに、足がカクンカクンと成って入水する者。この花見時期は、こういう輩だらけなので、ヤンキーが池に投げ込まれても、さほど珍しくも無く、他の周りに居た花見客が騒ぐ事も無かった。

 グズグズに濡れたヤンキーと共に阿呆蛇羅五人組は去って行った。

「サンキューサンキューベリマッチョ」

とチャッピー、畑中は外国人に酔っ払いながらお礼を言った。そして、この屈強な外国人達は間違いなくArmyという事ですな。所属基地を聞くとYokota Air Baseだと言う。

 ラニーと最初に逢ったのは、横田基地がある福生の酒場だった。友達付き合いをしていた田上令子からの電話を受け、自分の彼と、その友達と飲んでいるから来ないか?という誘いに、丁度暇を持て余していたので、福生まで行き合流。田上令子の彼がラニーという名のアメリカ空軍所属の軍人だった。

 アメリカ人にしては身体が小柄であった。性格は、大人しく落ち着いていて優しく、しかし力は強く礼儀正しく、日本人よりも日本人みたいだと思った。

 ひょんな事からビリヤードをやる羽目になりプールバーへ、はっきり言ってビリヤードなぞやった事も無く、ルールもさっぱり分からなかったが、テレビゲームで何度かプレイしていたし、酒も入ってたのでノリで始める。

 ビリヤードというものは、私共が日頃普通に、のほほんと、気軽に、オイチョカブや花札等をやる様に、アメリカ人達は朝飯前に屁を放く様にビリヤードをやっておる訳で、もう目を瞑っていてもプレイ出来るのです。そんなアメリカ人相手にテレビゲームのビリヤードをやった事があるくらいの日本人がかなうわけも無く散々たる結果だった。

 そんなだったが、ラニーとは意気投合し、その後も何かと連絡を取り、飲みに行ったりして親交を深めていった。

 三人のアメリカ軍人にラニーの事を聞いてみると、その中のスコットという名のナイスガイがラニーと友達だという。そして今日、此の井の頭公園に花見に来ているみたいで、そういう事なら、もうこのカップルだらけの自分の酒宴に留まっておる理由も無く、ラニーに逢いに行こうと席を立った。

 池の周りを歩き、ぐるりと半周程した辺りに外国人達が花見をしているのを発見。皆、楽しそうに酒を飲んでいた。その中に、良く知る顔を確認した。ラニーである。

「イエイ、ラニー元気?」

と近付くと、ラニーも気付いて

「オウ!」

と握手。それにしても何の集まりだろうか、色々な人種が和気あいあいと酒を酌み交わしている。言語は英語でコミュニケーションをとっている。が、此の辺りから自分の記憶は無く、気が付くとアコースティックギターを弾きながら、NirvanaのSmells Like Teen Spiritを熱唱しておる自分が居た。周りの外国人達も盛り上がっていた。そこで、我に返った。

「あれ?」

ギターを弾いている。それに、さっきは外国人達と流暢な英語で会話していた。Nirvanaの歌詞も発音も完璧だ。一体何が起こったのだろうか?

 突然茫然と成った自分に外国人達が何か話かけてくるが、全く理解出来ない。ラニーは、もう居なく成っていた。

 そして立ち上がり周りを見渡したが、何が何だか訳が分からない。とりあえず吉祥寺駅に向かって歩き始めた。歩きながら、もし前世等というものが有るのならば、自分はアメリカ人だったのかもしれない。いや、それにしてはビリヤード下手くそ過ぎるなと思った次第。井の頭公園にて。


                  終い。


          

 

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