やっちまったぁ!
「あ。」
「うわっ。」
「…はぁ。」
三者三様の反応になったのは招かれている客室へ戻る途中のことだった。
庭から城内への入口をくぐったらタイミング良く居たジョエル殿下と遭遇。思わず不敬な態度になってしまったのはしょうがないと思ってる。後ろでメロも溜息ついてるし。
「やぁサラ殿!庭園を見ていたのかい?」
「ご機嫌ようジョエル殿下。庭園というよりは、その隅にある研究棟別棟を見学していました。」
「え?あんな所に?」
目の前の彼はカミュさん達を訪れていることが意外だったらしい。少し目を見開くとその後すぐに眉間に皺が寄ったが。
「彼処は確か研究棟の変わり者がいるはずだ。何か無礼な事をしていないかい?」
「いえ全く。とても興味深い研究をなされているのでこちらも有意義な時間を過ごさせていただいてます。」
「しかし退屈だろう?ちょうど公務が一段落したんだ、これからお茶でもしないか?」
この人は私の言葉をどう捉えれば退屈という答えに行き着くのだろう。確かに有意義だと言ったはずだが。
そうこうしている内に隣に立った彼は肩に手を回し、移動を促してくる。
「僕のお気に入りの茶葉が先日手に入ってね。是非サラ殿と一緒に飲みたいと思っていたんだ。」
「申し訳ございません殿下。この後はアルテナ発展の為の都市開発事業について護衛と話を詰めたいので…。」
「そんなものいつだって出来るだろう?僕とお茶するより大事なことでは「『動くな』。」…?え?」
やってしまった。
元々ウザい殿下に私が生き延びる為に必要なアルテナをどうでもいいような扱いをされて、ついカッとなって魔法を使ってしまった。
いきなり上から目線の発言に首を傾げようとした殿下は、動けないことに気付きアホ面になっている。
「これは…?」
「あの…ですね、んー…。」
「ご無事ですか?」
険しい声で問う殿下と、問われて焦る私。
そこへ割って入ったのはメロの声だった。
動かない殿下を剥がして彼女の方を見れば、魔法を発動したかのようにこちらに手を翳している。
「申し訳ございませんジョエル殿下。サラ様に手を出す者は何人たりとも許すなと魔族の王より言われておりまして。動くなと彼女が仰られたのもあり、ご無礼を承知で拘束させてもらいました。」
「君は詠唱せずとも魔法を発動出来るのかい?」
「全てを無詠唱で発動させるのは不可能ですが。護衛二人は完全に無詠唱ですので、お気を付けください。」
それでは失礼致しますと私の背を押し離れるのを促すメロに心の中で盛大に感謝しつつ、振り返り殿下に頭を下げる。
危機一髪。難は逃れたが、部屋に戻ったらお説教されそうだ。
ちなみに殿下は30分ほどあの状態だったらしい。申し訳ないけど、ざまぁみろである。




