箱庭。
【この説明書を読むにあたり、まずは書斎の向かい側の部屋の私の遺品を見てもらいたい】
「はぁ?ミニチュア?」
目の前の遺品の大きさにまず驚く。
書斎と同じ広さの部屋の中央に鎮座した、恐らく瘴気の森のミニチュア。説明書を読むに、どうやらこれは城塞都市アルテナという箱庭らしい。
どう見ても森なのだが、都市とは。
「んと、【まずは森を一掃して城壁を建てましょう】?【魔女の言葉のみに反応して変化します】?一掃って何?環境破壊?んー?森をどかして城壁を…なんて言って反応するわけ……あったわー…。」
にょきにょきと。
森林が次々に姿を消し、森の一番外側に頑丈そうな城壁が生えてくる。この箱庭は音声認識するのか。なんだこの恐ろしい遺品。
「【ビックリした?ビックリした?これで都市作ってストーリーぶち壊そうとしたんだけど、ギリギリ間に合わなかったのよ!基本だいたいの物は作り出せるから上手く使いこなしてくれると嬉しいな!】って…。説明これだけ!?分厚い本の意味!」
ぶぁさっと本をソファに放り投げて絶叫。
先代のノリについていけない。絶対前世の知り合いにいたら合わないやつだ。
「…ん?基本だいたいの物?」
少し冷静になってみる。先代のストーリーってどんなのだったっけ?
書斎から日記を引っ張り出してもう一度目を通す。
記憶を取り戻してからこの箱庭を作成開始。前世に寄せた、しかし要塞にもなりえる都市に変化させる。
「もしかして、この箱庭が完成してなかったから間に合わなかったってこと?でも見た感じ完成してるみたいだし。」
これを完成させる為に魔力を使い果たして亡くなったのだろうか。
そう思うとあの無駄に明るい文章も悲しく見えてくる。
「都市を作るのに必要なのは私の声だけ。作り上げて住人増やしてこの国に対抗する?難攻不落なら諦めてもらえる?諦めてもらえればこの家に引きこもって天寿を全う出来る?」
ストーリーを壊す=私が不幸のまま死なない、つまり天寿を全うすれば私の勝ち?
そこからは時間の経過も気にせず、箱庭に向かって指示を出し続けていた。
城壁の内側には少しだけ森を残して万が一侵入された場合はそこで迷ってもらってお帰りいただいて。
森も突破された場合を考えて畑は外側に、住人が暮らす地区等は内側に。畑が荒らされて収穫出来なくなった時の為に備蓄できる倉庫の建設。勿論公共機関も設置。
海に面してる方の城門は広めにして貿易の拠点に。
移動は路面電車を配置してしまおう。とりあえずメインストリートになりそうな所には既に走らせて、他の場所はいつでも追加出来るように幅の広めな道を。
「後は住人が来てくれたらよね…。」
夜も更けた窓の向こう、この箱庭の通りに外が変化しているのを期待しつつ、私は部屋を後にした。