【??side】棟に燻る恋慕
瘴気の森の異変。
最初に間者から伝えられた時は何を馬鹿なと思ったが。
「瘴気の森…現在は城塞都市アルテナと呼ばれているようですが、其処の主となった魔女がヤシュカとの交易を成功させたそうです。また、冷害の被害もほとんどないそうです。」
報告書と同じ内容を告げてくる側近を視界から外し思案する。
正直、冷害などどうでもいい。向こうがたいしたことないのならば、陸続きのこの国も大きな被害を出すことなく収束するだろうから。
自分の中で最重要事項は一点のみ。
「ヤシュカ側の代表は…ロシュロール殿下なのね…。」
文字を指で追い、愛しい名を見つけてなぞる。
まだ自分が平民だった頃。この国とヤシュカが不可侵条約を結ぶことになった時に訪れてきた魔族の先頭に立っていた彼。遭遇したのは本当にたまたまだった。一目見ただけだった。
それでもその一目で、私は恋に落ちたのだ。
彼の視界に入りたい。隣に立ちたい。寵愛をいただきたい。
盲目とは恐ろしいもので、その感情のみで私は元々あった魔法の才能を劇的に伸ばし、今や城内に建てられた魔法研究棟の責任者だ。貴族の妨害は凄まじいものだったけど、耐えられたのはきっとこの時の為。
「魔女はまだ14歳…か。」
ロシュロール殿下は確か22歳程だったはず。ヤシュカの国王と歳が離れていたおかげで継承争いも起きず、自身も継承権を捨てて兄である国王を支えつつ自由に過ごしていると、我が国の王女様に招待されたお茶会で聞き出した。
流石に8つも離れた少女に恋することはないと思うが、貴族の婚姻として考えれば違和感はない。
「殿下はどのくらいの頻度でシュゼールを訪れているのかしら…。」
自国の人間ですら足を踏み入れるのに厳しい審査と管理が行われると、アルテナに観光という名目でヤシュカ側から潜入してもらった部下から報告がある。その時は彼の姿はなかったらしいが、交易の定期船は結構な頻度で訪れているという。その中にお忍びでいてもおかしくはない。
自分がアルテナに行ければいいのだが、立場が許さない。まさか、平民であればと思う日が来ようとは。
「まぁ、行けないのなら招待すればいいのよね。」
冷害の被害を抑えたその知識を披露してもらえば我が国も問題ないのではと王女様に言ってみよう。すでに陛下達は水面下で動いてそうだが、責任者とはいえ私を魔女に会わせることはしないだろう。
だが、王女様が会いたいと言えば?お茶会を開いてもらえればチャンスはある。彼女は溺愛され育てられた為、少々お馬鹿さんだ。上手く誘導すれば問題ないだろう。
「魔女が協力してくれれば僥倖。もし断られたり、彼女が殿下に好意を抱いていたら…。」
手にした小さな瓶を見て口角が上がる。
さぁ、さっさと仕事を片付けて王女様の所へ向かわねば。




