【???side】小さな背中は色褪せない
勢いで書いてます。誤字脱字あったらすいません。転職活動と引っ越しが終わって落ち着くまでは不定期になりますがよろしくお願いします。
「突然すまない。一緒にアルテナへ来てくれないか?」
奥に引っ込んで下拵えの手伝いをしていた私とお父さんの耳に届いたお母さんの悲鳴。慌ててホールへ飛びだせば、そこにいたのは久しく見ていなかった元雇い主だった。
侯爵様をこんな場所でもてなせないと真っ青な顔で対応しているお母さんを心配しつつ、私を視界に捉えたスヴェン・オズマン様は冒頭の台詞を紡ぐ。
アルテナ
オズマン領に突如現れた要塞みたいな城壁に囲まれた都市らしい。中に入るにはとても厳しい審査があり、以前はシュゼール側から入れるのはアルテナの人間が勧誘した者のみだけだった。魔族の国ヤシュカと交流があり、最近では王城の方でいざこざがあったとか。
「何故うちの娘を…?」
お父さんの疑問は最もだ。
侯爵様自身ですらやっと出入りが許された所。そんな厳しい所で新入りの彼が勧誘の権利など持てるはずもない。
「メロ嬢、それは彼女が1番よく分かっているはずだ。」
娘が世話になった、本当にありがとう
と頭を下げた侯爵様に今度はお父さんが悲鳴をあげた。外にまで響いていないといいのだけど。
勿論私だって驚いているが、これでも元侯爵家侍女。こんな所で動じないスキルを発動するなんて思いもしなかったが。
「城主様がサラ様なのは本当なのですね…。」
侯爵様が許されたのは城主が彼の娘だったからだと領内ではだいぶ噂になっていた。
辞める直前までは捕まったという話は聞かず、その後も無事に遠くまで逃げて欲しいと毎日祈っていたけども。まさかそもそも逃げていないとは。
最後に見た小さな背中を思い出す。
少女が持つには重いのではというくらい換金出来そうな物を詰め込んだ鞄を手に、笑顔で別れを告げた子が城主として活動しているなんて信じられないが。
「サラ様がお呼びで?」
「いや、私の独断だ。早朝から各家庭に配布されていると思うが、オズマン領民をアルテナに移住させる予定だ。勿論希望者だけだが、私があちらに移ると此処の経営は妻か王家がすることになるだろう。」
これも噂で聞いていた。
この前の夜会で王妃様と第一王子が儚くなり、第二王子が生きていたものの王籍は抜けていて。
残った第三王子が必然的に王太子に決まり、その婚約者として侯爵様の娘を望んだと。
「王命を断るとなれば恐らく領地は没収されるだろう。妻達は正直どうでもいいので適当にあしらったが、民はそうもいかぬ。」
「領民全員を受け入れるとサラ様が申したのですか?」
「許可は得てきた。既に受け入れ体制は整っていると手紙も来ている。民の中には既に荷物を纏めている者もいる。だが、私は最初にメロ嬢に来てもらいたい。」
真っ直ぐこちらを見つめる瞳に言葉がでない。
没収とか腹いせにしてはやりすぎだろうとか、侯爵夫人達の扱い酷すぎやしないだろかとか。恐らく両親も同じことを思っているはず。
得体の知れない場所に行くのは怖い。
でも。
「私はサラ様に会いたい。」
見送るしか出来なかった背中を追いかけるのは今だ。




