いってらっしゃい。
さて、夜会当日の朝。
現在私は役所にてお説教されております。
「休んでいいとは言ったけど、連絡一切拒否して引き籠もる奴がいるか!」
「いいじゃないですかたまには!それに何もせずにダラダラしていた訳じゃないですよ!?」
「お黙りっ!」
バァン、と。マグカップからカフェオレが溢れそうな勢いで机を叩くのは勿論トゥコーテンさんである。
今日まで誰の連絡にも応じず(単にスマホの充電を忘れていた)、引き籠もっていた私にご立腹だが、一応やる事はやっていた。
先日の襲撃で駄目になった空の結界を箱庭で張り直りしていたのだ。前回のは受け止めるだけで住民にだいぶ不安を与えてしまったので、今回のは跳ね返るようにしてみた。これまた実際に攻撃されないとどの程度かは分からないのでしばらく放置。
ついでに人が増えたことによって不都合が生じた所を細かく修正。その後に空き家の確認をして、終わった後はひたすらゴロゴロしていた。
ね?何もしてなくはないでしょう?
「はぁ…。とりあえず生きていたなら良いわ。子供達が心配していたから、後で学校の方に顔を出してあげてちょーだい。」
「はぁい。」
「なんか随分砕けた感じね。まぁそっちの方がこっちもラクだから、そのままでいいけど。」
最近被っている猫が剥がれかけているのはなんとなく自覚していたけど、不快に思われていないのならこのまま崩していこうかな。
「さて、行くわよ。」
「何処へ?」
「お馬鹿さんっ!レイル達の見送りよっ!」
「あれから全部任せてしまって申し訳ございませんでした。」
「構わないですよ。あの後いただいたお土産も部下達に好評でしたし。」
正門の会議室で待機していてくれたロシュロール殿下に入ってすぐ謝罪をしたが、機嫌を損ねているようではないので一安心。
レイル君にはとても心配かけたようで、手を繋がれたまま離してくれない。まるで王子様の様な(実際王子様だったんだけども)格好の彼が近距離にいるのは、流石にドキドキしてひまう。
「今更だけど、レイル君に全部任せちゃって本当に大丈夫?」
「勿論。殿下達と綿密に計画は立てたから。」
チラリと視線を殿下の後ろに持っていくと、今回の計画に協力してくれるであろう魔族が3人。皆深くフードを被っているから顔は見えないけど、過激派の人達でないと思いたい。
「本来なら私達が何とかしないといけない問題まで…本当に申し訳ない。」
「いいんですよ。その代わり、貴方には僕達がいない間の戦力としてサラにこき使われてください。」
この場に居たからゾンデルさん達も一緒に行くかと思われたが、どうやら待機のようだ。側妃様に服従するしかない4人は今は何も出来ないが、自分の意思で動ける彼は既に住民登録を終えているらしく、レイル君が容赦無い。
黒い、笑顔が怖い。
そんな彼を軽く諌めた殿下が私とトゥコーテンさんに向き直る。
「夜会で各人の動向を探りつつ、側妃の身の回り・部屋を調べて解呪を試みます。」
「可能な限り隠密に事を運ぶつもりだけど、万が一の時は転移魔法陣を使って追手を撒かせてもらうね。」
「分かったわ。警備の方には話しておく。というか、別に帰りはそれを使ってくれても構わないよ?」
隠し部屋にある各領への魔法陣は別に緊急時以外使用禁止にしているわけではない。ただ、何処に繋がっているか分からない所が多いので無闇に使わないようにしているだけだ。
今回夜会に参加するにあたって、城の転移先は既に確認してある。レイル君が幽閉されていた離宮の中にあったようで、フィオナ様協力の元魔術師団の人に感知されないように離宮は出入り禁止にしてもらっている。
「くれぐれも無茶しないでね。」
「まぁ、アンタ達が怪我したらアタシが良く効く薬作ってあげるわ。」
こんな時でもブレないトゥコーテンさんに緊張感が薄れていく。
勘弁とばかりにレイル君が会議室を飛び出していき、殿下達もそれに続いて部屋を後にした。
「大丈夫ですかね…?」
「…信じて待ちましょう。」




