こうなったら丸投げ。
「おかえりなさい。」
「ただいまです。どんな感じですか?」
「レイルが市場の方のを回収して、別室にて待機中よ。」
扉を開けた途端にお出迎えしてきた強烈な匂いに顔が歪んだが、とりあえず状況を聞こうと足を踏み入れる。浮いているゾンデルさんもこの匂いは辛いらしい。獣人だし、鼻が利くのだろう。
恐らくこの匂いの原因である薬品の被害者となったであろう彼の部下は、ゾンデルさんの姿を見て唖然としている。
「トゥコーテンさん、リストバンドの解毒剤を用意してください。それと、彼等もとりあえず解放してあげて、全員別室にて会議をします。」
「ソイツから何か聞き出せたの?」
「そもそもゾンデルさんは呪いにかかってません。殿下、このまま一緒に参加していただいても?」
「既に向こうに連絡は飛ばしたから、いくらでも付き合うよ。」
「ありがとうございます。」
「さて。まずは自己紹介していただいても?」
私の隣に座る殿下がゾンデルさんに向かってイイ笑顔を見せる。観光の邪魔をされたことに実は相当腹を立てているようだ。帰りに抹茶スイーツ持たせてあげよう。
「私は騎士団の獣人部隊先遣隊隊長、ゾンデルと申します。以下4名は私の部下です。」
「で?貴殿らの目的は?この都市が空からの襲撃を受けたようだけど、宣戦布告でもしに来たの?」
「あの攻撃は共に来ていた魔術師団が行いました。様子見で放ったようですぐに城へ戻りましたけど…。」
なんと、あの時は別の人間も来ていたのか。あわよくば都市を壊滅させようとしたのだろうか。
こちら側としてはゾンデルさん達よりも許せない事である。レイル君が【ちょっとトイレに】的な軽いノリで席を立ったのをルーヴさんが必死に止めている。彼的にはやっと手に入れた自由を奪われるかもしれなかったわけで。分からなくもないが今は情報を貰って整理するのが先だ。
「今回の目的は、側妃様より冷害の対策案を見つけてこいとのことでした。以前よりオズマン侯爵がこちらのおかげで被害を最小限に抑えていたのを耳にしておりましたから。」
「父に聞かなかったのですか?」
「何度か伺ったのですが、いつもタイミング良く正妃様や第一王子殿下が侯爵を呼び出してしまい何も…。」
なんとなく親子・兄弟だなと思ってしまったのは私だけではなかったようだ。トゥコーテンさんと2人遠い目になり、【あの親子、この子と同じようにイイ笑顔だったんだろうな…】とレイル君に視線を向けてしまった。
「呪いに関してはゾンデルさんからしか聞けないが、そもそも知らなかったんだろう?」
「はい。側妃様は城の中でも人間以外の種族を否定する最たるお方。正妃様の進言で態度を軟化させつつある陛下ですが、あと一歩踏み出せないのはあのお方のせいだと言われております。」
「否定するくせに主に魔族が使っていた禁忌を使用するとは笑えるな。」
まったくもって殿下の言う通りである。
折角フィオナ様が頑張ってくれているのになんて事をしてくれているんだ。
「城の他種族…ほとんど獣人になりますが。私達は陛下が側妃様を娶ってから待遇が悪くなり、その事に不満を持つ奴も少なくありません。」
「万が一獣人部隊に逃げられては人間の犠牲者が増えるからね。君達が逃げないように側妃が来てすぐに呪ったんじゃない?」
出された緑茶を品良く飲むレイル君の言葉遣いは悪い。真相は受けてる人達に聞きたいところではあるが、十中八九ソレだろう。そして彼等はその事を話したくても話せない。ならばゾンデルさんに気付かせまいと今まで頑張ってたのか。バレちゃったけど。
「サラ、この件も僕に任せてもらってもいい?」
「うん?まぁ正直面倒だなって思っちゃったから片付けてくれるのは凄くありがたいけど…。」
「どうせ夜会には僕が行くんだし。その時に片付けてくるよ。」
「あ、私も協力しますよ。」
レイル君は母親のこともあるからだろうけど、国が違う殿下まで名乗りをあげるとは。
「その側妃に呪いの知識を与えた奴がいるなら把握しておきたいからね。万が一魔族だった場合、ヤシュカで問題になるから。」
「確かに…。じゃぁ、2人にお願いしていいですか?」
1番偉い人間が問題を丸投げーしかも他国の王子にーするのは本来なら白い目で見られそうだが、私だからしょうがない。最近頑張ってたし、皆がやる気ならそれに任せてもいいでしょう。
ゾンデルさん達はこのまま夜会が終わるまで滞在してもらうことになり。トゥコーテンさんにも休めと言われた私はお言葉に甘えて、その後夜会当日になるまで一切外に出ることはなかった。
引き籠もり万歳。
 




