適材適所。
「おやおやおや。これはまた随分凝った呪いですね…。」
「服従系のものかとは思っているんですけど。」
「そうですね。サラ殿はこれを解呪しようと?」
「それはトゥコーテンさんに止められました。失敗した時のリスクが高くて。」
いつの間にか増えて3人になっていた獣人さん達を前に殿下はふむふむと考え事を始めた。邪魔をしてはいけないとトゥコーテンさんの所まで移動し、増えたのは学校へ向かった人だと報告を受ける。
監視室を出た後にすぐやらかしてくれたようで、私が本と格闘している間に運ばれたらしい。
ついでに市場で観光していた人の話をすれば、彼女は鼻で嘲笑った。
「なかなかしぶとそうじゃない。」
「ただの馬鹿じゃないんですか?」
「呪いかかってるのに目的忘れてそんなこと出来る訳ないでしょ。そう見せるのが上手いだけよ。」
「あ、そっか。」
何にせよ街を壊されないのならまだ泳がせておくに限る。この呪いが解けそうであればゾンデルさん含め呼び出さないとだけど。
残りの2人の報告は先程監視室から届いてはいる。ゾンデルさんは畑地帯に到着したようでまずは土の様子を見ているとのこと。キョロキョロ頭が動くことがあるみたいで、話を聞ける人を探しているのか誰かに見つかるのを恐れているのか。
前者であれば、残念ながらこの時間は住民は畑仕事を終わらせて各々街で過ごしている。話を聞こうとするなら、だいぶ離れたところにある茶畑に併設された工場に行くしかない。
後者は最初から監視されているので無意味である。
「まったく、夜会前に何してんだか側妃様は。」
「夜会前だからこそじゃないんですか?ここで得た知識をさも自分が指示して研究した結果だと大々的に仰る為に。」
「オズマン侯爵が怒りそうね。」
側妃様は各領からあがってくる報告書に目など通していないのだろう。陛下や宰相はオズマン領の変動の無さに流石に気付いてそれとなく父から聞き出そうとしていると手紙が送られてきている。現時点で全て失敗に終わってるようだが。
「もういいんじゃない?このまま放置しても面倒だし、さっさと残りも回収しちゃえば。」
「うーん、呪いのせいで何の情報も掴めず追い出すのも…。」
あわよくば解呪して彼等をこちらに引き込みたいところではある。上手く利用できれば他の獣人部隊も付いてくるかもしれない。そうなれば、軍事力の底上げが出来る。
「サラ殿、よろしいですか?」
「あ、申し訳ございません殿下。何か分かりましたか?」
「どうやらあの呪いは術者の何かと連動しているようで、ソレを壊さないと完全に解くことは出来ません。」
何かとは何なのだろう。側妃様が常に持ち歩く物なのか、部屋で厳重に保管されている物なのか。なかなかに残念な報告につい俯いてしまうと、横でトゥコーテンさんが動く気配がした。
「完全ってことは抜け道があるんだろう?」
「はい。連動させることにより解呪の難易度はぐっと上がりますが、その分本当に僅かですが綻びが出来やすいです。」
特に魔法に特化した種族ではないただの人間だとそれが顕著に表れるという。獣人は肉体強化の魔法がメインの為に知識として持ち合わせていないだけか、探していて難航しているのか。
僅かな希望が見い出せたと前向きに捉えその抜け道とやらを殿下に尋ねれば、準備が必要とのこと。
エルフのトゥコーテンさんと魔族の殿下で作業するのがベストなようで、私は残りの2人を回収する任務を任された。
トゥコーテンさんの目がキラキラしていたのは見なかったことにする。




