不穏な招待状。
間隔あいてしまい申し訳ございません。いつも閲覧ありがとうございます。
「流石に価格が高騰してきているのを不安がる声がどの領でも聞こえてきたにゃ。」
「サラ、侯爵には教えてあるんでしょう?」
「はい。だから、他領と比べても圧倒的に安いですね。」
結婚式が終わって少し落ち着いた頃。
ルーヴさんが戻ってきたのでいつものようにトゥコーテンさんの所に集まり会議中だ。あらかじめ各領の作物の値段を分かりやすく表に纏めて持ってきてくれたルーヴさんには頭が上がらない。前世大学生の時からレジュメ等を作成するのが苦手な私なので、この資料はありがたい。
「オズマンに出入りしてる他の商人がサラ様のこと他領で話してるらしいにゃ。」
「え、それ大丈夫なんですか?父に迷惑かけるのはちょっと…。」
「大丈夫にゃ。多分あれは王妃様か侯爵様の子飼いだと思うけど、それとなく黒髪への認識を変えていこうと上手く誘導してたにゃ。」
「あちこちに配置出来る程子飼いがいる王妃様…恐ろしいわね。」
今日はコーヒー片手に抹茶シフォンを頬張るトゥコーテンさんの眉間に皺が寄る。
「母はオズマン侯爵からその道に詳しい人を紹介されたみたいで、人材の発掘も育成もやってるようです。」
「フィオナ様…政務の方は…?」
「兄が自分の方に回すように言って、母を自由にさせているみたいです。メナは既に解雇されているので、離宮で着々と事を進めているそうです。」
便箋の1枚を渡され目を通してみれば、レイル君と出会った時に一緒にいた侍女はあの後何食わぬ顔でフィオナ様に仕えていたようだが、私や彼の手紙で事実を知った直後に公爵家へ戻されたらしい。
その穴を埋める為に父に相談したところ、元々侯爵家で雇っていた影だったご老人を紹介され、その人指導の元フィオナ様自身が動かせる駒を増やしていたようで。いや、物騒でしょ。
「ま、概ね順調ってことね。あとは冷害が解決すればねぇ…。」
「こればっかりはどうしようもないですから。」
毎朝皆が丁寧に作業してくれているおかげで大きな影響もない。茶畑も質こそ少し落ちたものの、収穫量自体に変化はない。同じように対策してもらって普段と変わらない生活をしているヤシュカに輸出する量もそのままなので、お金に困っているということもない。
「しばらくは各領主がどう動くか高みの見物かしら?」
「いや、そんなこともないみたいです。父が母と共に近々各領主とその夫人を招待して夜会を開くそうです。そこで色々纏めるんではないのでしょうか?」
「やっと陛下が動くのか。」
「それで…。母から、アルテナからも代表者を1人寄越して欲しいと…。」
「「「え?」」」
思いもしないお誘いに私達3人の手が止まる。
アルテナは一応オズマン侯爵の一部だ。隣のドルベルドとこの森の所有について先日父と話し合いの場に参加した時に正式に決まり、国にその届も出してある(久しぶりに見たドルベルド領主が私を見て絶叫したのは記憶に新しい)。
つまり、オズマンからは勿論父が参加する。なのに何故此処からも出さねばならぬのか。
「何か企んでるのかにゃ?」
「兄も賛成してるようです。サラ、この夜会、僕が参加しても?」
「え!?それは王家的に問題があるのでは!?」
死んだはずの第二王子が生きていたなんて、しかも黒髪とか、色々とインパクトあり過ぎではないだろうか。いや、陛下とその側近に関しては知っているだろうけども。側妃様とか他の貴族とかも参加するわけだし。
「大丈夫。上手くやるよ。アルテナにマイナスになるようなことはしないから安心して。」
キラキラと。流石王子というべきか。最高に爽やかな笑顔でこちらを見られては断るなんて出来ない。
正直、王家主催の夜会に参加出来る程のマナーを習得してる人間は貴族であった私か、王子のレイル君くらいだろう。私はそんな面倒な事に参加したくないのでありがたいが。
後日、彼の参加を許可したのを盛大に後悔することになる。




