魔女は今日も忙しい。
8時半にけたたましく鳴り響くアラームを、スマホを手繰り寄せて止める。ノソノソとベットから抜け出しカーテンを開ければ、どんよりとした空。
太陽を見なくなって2週間。カレンダーの曇りマークだけが増えていく。ここまで続くと流石に信憑性が出てくるのか、半信半疑で畑の世話をしていた住民はいなくなり、毎朝丁寧に作業する姿が増えたらしい。トゥコーテンさんが教えてくれた。
ルーヴさんは1週間おきに外で行商をしていて、その間は校長先生に世話を頼んでいる。そして戻ってくる週は外の情報を私に持ってきてくれる。
今日はまさにその日で。黒のワンピースに白のカーディガンを羽織って向かうのはトゥコーテンさんの病院だ。ここにレイル君も呼んで4人で会議するのを決めたのはルーヴさん。ついでに外から病気の類いをもらってきてないか検査してもらいたいかららしい。
「お待たせしました。」
「いらっしゃい。もう揃ってるわよ。」
ちなみに父がアルテナに来た日にレイル君は他の人達にも自分の素性を明かしている。それでも態度を変えなかった住民達に泣きそうになっていたのは見なかったことにしてある。
テーブルに用意されていたのは紅茶と抹茶のケーキのようだ。随分と抹茶も浸透したものだ。ルーヴさんは既にフォークを握り締めてワクワクしている。
「ルーヴさん、今回はどうでした?」
「んー、やっぱりちょっと低迷していたというか…。どこもうちみたいに対策してないから、出荷出来るレベルのものが減って少しずつ野菜の値段が上がってきてるって言ってたかにゃ。」
「アルテナでも品質は流石に保つのが難しくなってきてるね。それでも出荷量も値段も変動ないのはサラのおかげだよ。」
「ホント、貴女は規格外よね。」
ケーキを口に入れる前にルーヴさんから話を聞き出しそれぞれが反応する。
冷害の影響が目に見えてきたのか。あとどれくらい続くか例の子に聞いてみたが、依然として土は冷たいようで。ヤシュカへ連絡を入れてみたところ、向こうも少しずつ影響が出てきているらしい。
「王都はまだまだのほほんとしてるにゃ。」
「陛下は何か?」
「いんにゃ、何も動きは。」
「オズマン侯爵と王妃様は?」
「父はとりあえず領内のことは自分で解決したいけど、こちらに余裕があれば支援してほしいとは言われてます。」
「母は宰相にそれとなく相談してみたようです。ただ、ルーヴさんの言うように王都に変化がないからまともに相手してくれないと。」
もういっそのこと死体偽装して第一王子とアルテナに引っ越そうかしらなんて言ってると続けられたが、フィオナ様どうか落ち着いてほしい。
「貴方のお母様もなかなかぶっ飛んでるわね…。」
「側妃が勝手に敵対視してきて面倒って手紙にありました。」
「まぁ、どこの国でもあるわよね。」
トゥコーテンさんの哀れみの視線がレイル君に注がれているが、彼は寧ろ楽しそうにしている。これは母とやり取りが出来て喜んでいるだけだと思うことにする。うん。
ルーヴさんはケーキのおかわりに夢中で話題の提供も無さそうだ。たいした収穫はないが、今日はお開きだろう。
「じゃぁ、ルーヴさんは引き続きよろしくお願いしますね。」
「…任せてにゃ。」
「あら?もう行くの?」
「はい。今日は役所にも呼ばれているので。」
昨日の届いた手紙に都市開発課からのものがあった。住民の要望をまとめて私に報告するのが仕事の一つで、今回が初めての呼び出しだ。最近は土地を拡げるだけでたいして箱庭をいじってなかったから少し楽しみである。




