ジャージ女、盗み聞きする。
アルテナを飛び出したものの、実家が領内にあるという情報しかない私は早速途方に暮れていた。更に言うと、呼び出しに急いで準備したせいで手持ちはスマホのみ。極めつけは、トゥコーテンさんから呼ばれた=お茶するだと思って、全力で手を抜いたジャージ姿である。この世界には勿論ない装いのせいで、さっきから周りの視線が痛い。
早くメロに会いたいが、引き返さなければならない要素が多すぎる。
というか、こんな格好の私を見せたらメロの雷が落ちそうだ。
まだ命は惜しい。よし、帰ろう。
あれだけ啖呵切って出てきて恥ずかしいがメロに怒られる方が嫌だ。城門に誰もいないことを願おう。
ただ転移魔法で帰るのも勿体ない気がして(この時点で自宅に転移すれば城門を経由せずに済むという発想が浮かばないくらいメロに怒られる恐怖が勝っていた)、少し様子を見てから帰ることにする。
道の端へ移動して、認識阻害の魔法を自身にかける。これで私は壁だ。
「聞いたかい?侯爵家の話。」
「なんだ?行方不明の娘さんが見つかったのか?」
お、早速近場の店で世間話が始まった。しかも侯爵家とは、なかなかタイムリーである。残念ながら、行方不明の娘さんは私なので一生見つかることはない。
「違うわよ。ほら、侯爵様が戻ってきたじゃない?留守中はこっちの仕事を奥様と執事さんに手紙で指示出してたらしいんだけど、何やら支出の方に問題があったとか。」
「へぇそれはまた。侯爵様の居ない間に横領でもしたんかな?」
「あれじゃない?今度王都で開かれるお茶会の為に奥様とお嬢様がドレスにお金かけすぎたんじゃない?」
「まさかぁ!」
いや、多分当たりだと思います。
なんて言えはしないので、集団に向かって心の中で拍手を送っておく。
報告と違ったいうのは恐らくそれだ。というより、あの母娘が無駄遣いしたのを黙っていて怒られた感じだろう。子供か。
それにしても、侯爵家の情報がほぼ筒抜けだが大丈夫なのだろうか。
「森の方はやっぱり不気味よねぇ。」
「相変わらず中の様子は分からないよな。入っていく人は見るけど出て来ないし。」
こちらに関して問題は無さそうだ。足を踏み入れたら二度と外へ出たくなくなる都市を目指してこれからも頑張ろう。
「それにしても、最近天気が悪くて洗濯が捗らないわぁ。」
「あーわかる!この時期はいつもカラッとしてるのにねぇ!」
前世日本では今の時期はまだ梅雨でジメジメする日が多かったが、こちらはそういったものはないらしい。元はラノベの世界だし、食物と同じで気候も似たようなものかと思っていた。帰ったら図書館で統計資料探してみようかしら。
「んー、お腹すいたから帰ろう…。」
くぅ、と鳴ったタイミングのいいお腹に苦笑い。
結局徒歩で帰らず城門まで転移したのだが、仁王立ちのトゥコーテンさんに怒られるのである。
メロに匹敵する怖さだった。




