過激派降臨。
ブックマークありがとうございます。
ヤシュカとは。
裏にある海を渡った先にある魔族が多く住む国だ。というより、ほぼ魔族と言った方がいい。今までの記録との違いがまずここである。
奴隷だった魔族さんはそのヤシュカで有名な商会の息子で、隣国の商会(こちらは人間)の恨みを買い誘拐されて売られたようで。恨みというより差別からなんだろうけど。
その商会の商会長が何故王弟殿下と共にアルテナへやってくるのか。
「初めまして。遅くなってしまいましたが、この度は我が国の大切な国民を救っていただき誠にありがとうございます。」
「とんでもございません。」
「しかもこんな素敵な黒髪をお持ちの魔術師と出会えるとは!」
「あははー、ありがとうございます。」
目の前には恐ろしいくらいに整った容姿の2人組。直視するのを躊躇う。そして黒髪にランクがあるのか、どんな社交辞令だ。
こちらの都合ガン無視でいきなりやってきた2人と現在役所の応接室で対峙している。まさか他国の王族が来るとも思わなかったので迎賓館など用意してないしするつもりもなかったし。
敵意は見られないが、こちらを探るような視線はなかなか気持ち悪い。
「このまま息子さんは一緒に帰国致しますか?」
「それは本人の希望に任せようかと思っております。それにしても、こちらへお邪魔する前に街の方を見学させてもらいましたけど、なかなか興味深いものが沢山ありましてね!是非商売させていただけないかと私はウズウズしておりましてね!」
「え、はぁ…。」
「申し訳ございません。商会長は珍しいものにすぐ飛び付く癖がありまして。でも確かにアルテナは自国で見ないもので溢れかえっていて楽しいですね。」
ニコニコ。
こちらとしては交易出来るのはありがたいが、この2人の笑顔が胡散臭すぎてどうにも信用出来ない。珍しいものなんて乗り物だけで、売り買いするものはどこの国でもあるような作物等しか作っていない。ただ季節問わず育てられるように品種改良はしているが。
「特に珍しいものなど…。」
「そんなことありません!あのデンシャやバスと呼ばれる物の技術は是非とも知りたいところであります!」
「…。」
どうしよう。商談なんてしたことないから分からない。何故こんな日に限ってルーヴさん達は外に出掛けてるんだ。いや、学校が休みの日だから何しててもいいんだけど。そもそも急にやってくるこの2人が悪いわけだし。
「ふふっ、だいぶ警戒していらっしゃいますね。」
「警戒というか…。交易していただけるのはこちらとしても願ったりかなったりなんですが、こうも上手く話が進むのも…。」
「まぁ、確かに。」
スッと、空気が変わった気がした。
なかなか上げられなかった顔を2人に向けてみると、表情の抜けたまるで人形のような佇まいの王弟殿下と先程より悪どい笑みの商会長。
「『動くな』!」
「「っ!?」」
咄嗟に叫んでしまったが、身の危険を感じてしまったからしょうがない。魔族相手に効力があるのか分からないけれど、驚いているのをみるにちゃんと魔法は発動しているようで安心。
「これは…。略式詠唱でも詠唱無しでもないとは。魔術師はやはりどの時代も面白いようだ。」
「まだ見た目幼い少女に殺気を向ける殿下の趣味を疑いますよ。」
「失礼だな。私は紳士だぞ。」
おふざけで殺気を飛ばされたこっちの心境などお構い無しに会話を続ける向かい側だが。
「『黙れ』。」
「…。」
「本題があるならさっさと進めてください。アタシにはやることが沢山あるんです。」
引きこもりとか引きこもりとか引きこもりとか!
なんて熱弁は心の中に留めておく。トゥコーテンさんが隣にいたらロクなこと考えてなさそうって突っ込まれそうだけど。
そんな残念な気持ちを込めて睨めば了承してくれたのか頷く2人。声の拘束だけ解けば軽く咳き込み声が出るのを各々確認。
視線で促せば、王弟殿下が口を開く。
「サラ殿が造ったこのアルテナ、我がヤシュカがシュゼール国を侵略する為の足掛かりにしたい。」
何を言ってんだこの人。




