お坊っちゃんだなんて聞いてない。
「…。」
「さっきからずっと見てくるけど…。サラ、やりにくいよ…。」
学校の裏に作った魔法の練習場は今日も沢山の子達が呪文書片手に唸っている。暴発した魔法を打ち消す為に大人組が数人待機、私もそちら側に参加して視察を続ける。
だがどうしても先程の会話を思い出してレイル君を睨んでしまう為、睨まれてる本人は非常に動きがぎこちない。彼の暴発した魔法を打ち消したのは始まって30分で既に5回。優秀だと言われている彼に似合わない失敗だ。
「あーっと、ごめん。ほら、どんな状況でも素早く正確に発動させる練習だと思ってくれれば。」
「ひたすら見つめられる状況なんてあるのか?」
その突っ込みは最もである。曖昧に笑って誤魔化し、ひとまず視線を他にやった。
さて、どうしてくれようか。
本当に第二王子なら母親は正妃のフィオナ様だったはず。準備が整ったらレイル君の母親を探しに行ってもいいかなと思っていたが、とんでもない話だ。彼女が第一王子を捨てこちらに来ることはありえない。
なら第一王子も一緒にとも考えるがルーヴが持ってきた話からするに、現状王太子は第一王子という話が濃厚だそうだ。第三王子の母親である側妃が必死になっているようだが、本人にその意志がないらしい。
それでも優秀な人間なことは確からしく、第一王子派をよく思わない貴族が担ぎ上げようとしてると。
「面倒だなぁ。」
呟きは近くの爆発に上手いこと掻き消された。
「…ん?」
手に持っていたスマホがわずかに振動する。
画面に表示されているのは役所の交易課だ。あらゆる場所に呼び出しボタンを設置し、魔法でスマホと連動させてみて正解だった。3代くらい前の魔女が活用していたようで本当に皆チートである。しかし交易課は稼働はしているものの、体制を整える段階で正直特に仕事もなく暇なはず。
とうとう侯爵家が接触してきたのだろうか。
「あ!サラ様お待ちしておりました!」
「まさか此処から呼び出しを受けるとは思わなかったです。」
「本当ですよ!私達もまさかこんなに早く仕事が始まる…ってすいません。仕事したくないみたいな言い方に…。」
「大丈夫ですよ。私もそう思ってますから。」
3人しかいない交易課は、何故か国内ではなく周辺国も含めた地図とにらめっこしている。荷物を運ぶルートの開拓も任せているから、それに関して何かあったのだろうか。
「これ…父からです…。」
「え?お父さんと連絡取れたの?」
見た目は私と対して変わらない(実年齢は30歳)この街唯一の魔族さんが躊躇いがちに差し出してきたのは一通の手紙だった。
住み始めた頃に両親に無事を知らせたいと言ってしたためていたのは見たけど、こんなに早く返信が来るとは。しかし何故その手紙を私に?
「僕の分は別でちゃんとあります。これはお世話になってる人に渡してくれと。」
手触りの良い封筒にはどこかの商会紋が押されている。
ん?商会紋?
「父はそこそこ名の知れた商会の商会長なんです。是非サラ様に直接会ってお礼をしたいと僕宛の手紙に書いてあったので、多分似たようなことが書かれているかと。」
「そこそこって…あれ、ヤシュカで有名な商会の商会紋じゃない…。」
「お坊っちゃんだったのね…。」
商会紋を目にした別の職員が魔族さんを驚きの目で見ているが。
【息子を助けていただいたお礼も兼ねまして、王弟殿下と共に一度そちらへご挨拶に伺いたいと思っております】
私はその一文の方が驚きである。




