初めての生存ルート。
「ふぅ。順調ね。」
屋上から見下ろす景色に変わりはない。でも、少し賑やかに見えるのは微かに聞こえてくる住民の声のせいだろう。
ここ最近の日課である起床後に街を眺めた後箱庭部屋へ移動する。昨夜作った生活用品の具合を見て問題がないのを確認し、それを手に自室へ。窓際にそれを置き、完了である。
小さな箱は開けると仕切りで2つに区切られている。左の青い方に手紙を入れて蓋をすれば組み込んだ魔法でそのまま役所の郵便課へ。其処で仕分けをされた手紙が右の赤い方に届く。
ポストを作っても良かったのだけど、スマホが存在しない此処では手紙が勿論主流。ポストへ投函、回収、仕分け、配達をするのにあまり時間を掛けるのも嫌という民意により開発したものだ。
試しにトゥコーテンさんに書いた手紙を入れて蓋をする。箱が淡く光り、その後にもう一度開ければちゃんと転送されたようだ。
「よし、これを役所に持ってって、学校の視察だー!」
「あー!サラちゃんだー!」
「サラちゃんやっほー!」
「遊びに来たのー?」
役所での怒濤の質問責めに体力を半分程もっていかれた後のチビッ子たちの笑顔は癒やされるねぇ。自分も絶賛11歳満喫中だが。
「今日は校長先生とお話しに来たんだよー。皆学校楽しい?」
自分より年齢が上の子もいるが、どうしても前世の感覚が抜けきらなくてお姉さんのように振る舞ってしまう。通常ならだいぶ怪しまれるのだが、伝承曰く【黒の魔術師はその外見だけで年齢を把握することは難しい】らしい。だから私が11歳だと言っても軽く流されることが多い。複雑である。
「おぉ魔術師様、よくいらっしゃいました!」
「どうも。今日はよろしくお願いします。」
私が校長先生と呼んだのは、あの商人お爺さんである。ルーヴさん以外の獣人さん達は学校で働く提案に快く頷いてくれたのだ。少々数に不満あれどまだ住民がそこまで多いわけでもないので、順次増やしていけば問題ないだろう。
ルーヴさんはそのまま商人を続けている。この街で商売するのは勿論、外に出ることもしばしば。彼女のおかけで外の様子が分かるのでそこは感謝している。
「皆楽しそうで良かったです。」
「いやはや、魔術師様は本当に素晴らしい方ですのぅ!」
このお爺さんは最初から私を魔術師と呼ぶ。魔女ではないのかと聞いたら、性別問わず使える呼称なので獣人は魔術師と統一して呼んでいるらしい。
まだ少ない生徒のいる教室を見て回る。
ちょうど授業が始まったようで、子供達はキラキラした瞳を教壇に向けていた。
そこにはレイル君の姿もある。彼は元貴族であるしそれなりの教育を受けていただろうに、「楽しそうだから」と言って通っている。
カラフルな頭に混じる黒はとても生き生きしていた。
「あの、魔術師様。」
「ん?何ですか?」
「少々気になることが…。」
普段から声量が半端じゃないお爺さんが潜める程の案件が発生したのか。早々に対策が必要だと思い、応接室に案内してもらい聞かされた話は。
「レイル君が王族?」
「えぇ。王都で第一王子の姿絵をみたことありますが、髪の色以外そっくりでしてね…。」
なんとまた厄介な。メロが持ってきてくれた貴族図鑑をもっとちゃんと見ておけば良かった。没落貴族の名前こそ覚えてはいたけど、家系図等は確認しなかった私のミスだ。
もしレイル君が本当に王族なら。恐らく亡くなったとされている第ニ王子だろう。
彼が生きていた記録は日記に残されていない。
初めての生存ルートだ。どう扱うべきか分からない。
教室で楽しそうに勉強してるであろう彼の姿を思い出してため息が出てしまった。




