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【完結】魔女の箱庭  作者: うかびぃ
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【???side】従者は茶色の下の黒を望む


サラお嬢様が屋敷を飛び出してから。

私はその2日後に侯爵家へ辞表を出した。



お嬢様の姿が見えなくなった直後に許可も無く入ってきたリーナ様は、私を視界に入れたものの声を掛けること無くお嬢様の衣装部屋を漁り始めて憤慨した。



「ちょっと!サラは何処よ!?」

「…私がここを訪れた時は既にいらっしゃいませんでした。」

「はぁ!?嘘つかないでくれる!?アンタが逃がしたんでしょ!?」



これじゃぁストーリー通りにならないじゃない!と何やら奇妙なことを申されているが、知ったことではない。

無事お嬢様が脱出出来たことだし、もう此処には用はない。

まだ喚いている声がするが、無視してお嬢様の部屋を後にする。



お嬢様は黒髪故に他の侍女や執事から煙たがられていたが、私に対してはそうでもなく。待機部屋に戻れば漸く解放されるねといらない同情をもらった。

こんな環境でなければ、こんな差別のある国でなければ。

お嬢様と離れることはなかったのに。



生まれたその瞬間から忌み嫌われ、生活のほとんどを自室で過ごされていたお嬢様。ただ黒い髪だけで、他の人間と変わりはしないのに。

正直言ってしまえば私も最初は抵抗があった。そんな負の感情を吹き飛ばしたのは、お嬢様の笑顔だった。



【初めまして。貴女には苦労かけてしまうけども。必要最低限だけでいいわ、お世話をよろしくね。】



諦めた笑顔でこちらに頭をさげる、当時7歳の少女に私は胸を抉られた。令嬢だろうが、こんなに小さな子がしていい笑顔ではない。私だけでも、この子の傍にいなければと。

そこからはお嬢様と過ごす時間を何よりも大切にした。

まともに教育を受けられないお嬢様に、コッソリと書斎から持ち出した書物片手に可能な限り知識を与え。最初は侯爵様にバレたらと恐怖で1冊ずつしか持ち出せなかったが、家に寄り付かないで王宮に逃げていると知った後は何の躊躇いもなく手に取れた。

いつの日か奥様に見つかって問い詰められたけど、「お嬢様の世話の息抜きが欲しくて勝手に持ち出した」と言えば、実の娘への嫌悪感を隠そうともせず快諾してくれた。



「あんな子のお世話をさせて申し訳ないわ。書斎の本は好きなだけ気分転換に使ってちょうだい。」



普段はとても人柄の良い奥様。娘達のことになると途端に聡明さの欠片も無くなる奥様。私へのその言葉も本当に申し訳なさそうな声色だった。でも私はその瞬間殺意が芽生える程憎悪した。



そんな侯爵家もお嬢様がいなくなった今となっては、リーナ様のお世話に加わるのも嫌で。奥様に関しても同様。

両親には悪いが私は職を辞して実家に戻った。

もともと実家は飲食店だったので、最初は渋い顔をされたものの人手が足りなかったのもあって受け入れてもらえた。



市場では森の急変の話題で今も持ちきりだが私には些細なことでしかなく、考えるのはお嬢様のことだ。

無事遠くまで逃げられただろうか。

できれば国外で差別を受けることなく過ごしていて欲しい。

ちゃんと食べているだろうか。

屋敷を抜け出して街を見て回っていたし、上手く溶け込んで生活していてくれてるといい。



「っ!…やだわ、こんな所にいるはずがないのに。私ったらどれだけお嬢様が好きなのよ…。」



買い出しで赴いた市場で見掛けた少女の後ろ姿にお嬢様を重ねてしまい動揺してしまった自分に笑える。

いるわけがない。



でも、いつか、また。



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