オカンモードなトゥコーテンさん。
いつもは浴びることのない朝日に眩しさを感じて嫌々目を開けたら自室ではなかった。
「…やば。あのまま寝ちゃった…。」
机にうつ伏せで寝てしまったせいで身体中が痛い。首なんかバキッて鳴ったよ。11歳にあるまじき。
さてすっかり明るくなってしまった現状。迂闊に外に出て見つかるのはマズイ。今までの転移魔法は先代の魔法陣を使用するだけで自分の魔法では試したことがない。だが、それが成功しないと私に勝ち目はない。
詠唱も何も分からないままとりあえず行きたい場所、自室を強く願ってみる。
「『転移』」
「まったく!貴女はどーしてそんなにっ!」
「す、すいません…。」
結果から言えば転移は成功した。
トゥコーテンさんの家の庭に。
庭に植えた植物の世話をしていた彼女の横に見事着地。いきなり現れた私にトゥコーテンさんが絶叫。
そのまま事情聴取になり、図書館で一夜を明かしたことを伏せて転移魔法を使ったことを白状。
そして現在、お説教中である。
「これが街の外だったらどーするの!?もう!心配させないでちょうだい!」
「…オカンだ…。」
「何か言ったかしら?」
「イイエナニモ。」
般若だ。後ろに般若が見える。前世でもお母さんからこんなに怒られたことないのに。
「っそーだ。トゥコーテンさん、今日からの買い出しは私が1人で行ってくるから皆をお願いしていい?」
「話はまだ終わってないけど、まぁいいでしょう。買い出しの件は構わないけど、私も行きたい所があるのよ。」
とりあえず話が逸れたことにホッとする。ただ、次怒らせたら命の危険がありそうだ。私一応城主なんだけどなぁ。
「里にでも帰る?」
「いいえ。城門の隠し部屋にある転移魔法が借りられるなら、各領の視察と奴隷商から奴隷を買えるだけ買ってこようかなと。」
言い方はなかなか酷いが、住人を増やすために手っ取り早く奴隷商の元にいる奴隷を買うという建前で救出してくるらしい。
ただ手持ちが少なくて視察がメインになりそうだと目の前の彼女は悔しそうにしている。
「そういうことなら必要経費から出すよ。」
おいで、と手のひらをお皿にして呼び出したのはパンパンになった袋。その中身をトゥコーテンさんに見せればまた悲鳴をあげた。
「貴女!そんな軽々しく大金を出さないの!」
「ちょ、落ち着いてください!これは偽物です!」
そう、袋に詰まっているのは金貨。しかしこれは、遺品の1つである偽物だ。
土魔法が得意な魔女だったらしく、その辺にあった砂利を金貨に変えてストック。重さも同じに作ったのでバレることはないと文字が誇らしそうだった。
使うのを躊躇っていたのだが、奴隷商相手なら話は別だ。そんな奴等にトゥコーテンさんの大事なお金を使わせるわけにはいかない。
一通り説明を終えた頃には彼女の眉間の皺はなくなっていた。
「本当に見分けがつかないわね…。よっぽど王宮の財務部が検査しないと分からないくらい。」
使うのを躊躇っていた理由は偽物という罪悪感ともう1つ。
オズマン侯爵が王宮の財務部で仕事をしているから。
早々に偽物だと発覚して、捜査したら自分の領から出ているとなれば真っ先にここへ突撃してくるだろう。
別に怖いとかではないが、現段階での衝突はこちらが不利だ。
だが他国への伝手もある奴隷商の手元に入ってそこから流れるのであれば、流出元を炙り出すのは困難になる。勿論出回るのはこの国だから安心は出来ないけど、時間稼ぎには丁度いい。
「まだまだストックはあるので焦らずゆっくり買い占めていきましょう。変装は忘れずにしてくださいね。」
「勿論よ。貴女も気を付けるのよ?」
優しく頭を撫でるトゥコーテンさんに、やはりオカンを感じてしまうのはしょうがない。
袋を託し、自分も準備の為、今度はちゃんと徒歩で自宅へ移動した。




