恋人を想うがごとき願いは。
「真夜中の図書館とか、ホラーよね…。」
只今の時刻、午前2時。そんな非常識な時間に図書館にやってきたわけだが。
いずれ使われるであろう司書専用の入り口からコッソリ侵入し目指すのは、この国の歴史が書かれている書物だ。トゥコーテンさんの話を聞いた私は善は急げとばかりに自宅の日記を確認。しかしやはり何処にも書かれてはいなかったので図書館へ来たわけである。
この時間になってしまったのは人目を避ける為と、日記の確認に時間がかかっただけだ。決して長風呂してたせいではない。
手にしているスマホの明かりだけでは心許ないが、住人が少ないとはいえ電気はつけられない。トゥコーテンさんに見つかったらお説教くらうだろうし。
館内の案内を確認し、昼間子供達と本を読んだ場所から近いことに安心。流石に怖いのであまり遠くには行きたくない。
「れ、き、し、れ、き、し………お、あった。」
見るからに分厚い本が詰まっている棚からお目当てのものを物色。ついでに魔族の本とかもあればいいんだが。
魔族に関しては先代達の何人かが接触していたらしく記録が残っていた。今回も同じであれば、裏にある海を渡った先が魔族が多い国らしい。戦争は確かに数百年前あったが、一応和解はしているようで交流はあるそうだ。ただやはり、差別する人間が多いのでひっそりと暮らしているとのこと。
「向こうの国と貿易するのもありかもなぁ…。」
資金に関しては必要経費ならいくらでも造り出すつもりだ。この森の激変が向こうにも伝わってくれていれば、調査に来てくれるだろうか。
結局魔族に関しての書物は近場になかったので一旦隅に追いやるとして、恐らく何処の図書館にも存在しないであろう歴史書の表紙を開く。
そもそも戦争の発端となったのは人間の、他種族への差別かららしい。特に魔族へのソレが酷かったようだ。今日だけで人間(主に王族)への好感度がマイナスに降りきれた気がする。
エルフと獣人に関しては数年に渡る協議の末和解出来たものの、魔族はそうもいかなかったらしい。
「ん?戦争を起こしたのはシュゼール国だけなの?」
引っ掛かる一文を見つけてつい口に出してしまう。
どうやら他の国は静観していたようだ。シュゼール国は大国とはいえ全ての魔族相手。数の不利を覆したのはやはり、
「10人にも満たない黒髪の魔術師達により圧倒的勝利…。」
詳細は書かれていなかったが戦争の期間を考えれば彼等の凄さは分かる。
「被害を最小限におさえる為…。」
魔術師達は人間だが、魔力量でみると魔族に近いらしい。一説では人間と魔族のハーフの象徴が黒髪だとか(私がいる時点でその可能はほぼゼロなのだが)。そんな同郷にも近い彼等の為に敢えて協力したと。しかし和解も表面だけと知り、不干渉を公言。自分達の立場を危うくしたまま現在に至ると。
「自業自得な気もするし、シュゼール国のやり方が酷いのもあるし…。」
史実が分かった所で私のやるべきことは変わらない。ヒロインであるリーナのハッピーエンドを回避して息災で生き延びるだけだ。
日記の1つには本編、つまりゲーム開始の前にプロローグ的なものがあると書かれてるものもあった。どうやらその時のヒロインと魔女は友人同士だったようでゲームの内容をよく聞かされていたらしい。
そのプロローグは本編の1年前、今から2年後にある王国建国記念のお祭りのストーリーだとか。
「過激派の魔族による襲撃事件だっけ?」
その事件が発生したことによって陛下の奥さん(正妃か側妃かは書かれてなかった)が黒髪を認めることを陛下に進言し、後に正式発表となる。
「まずはこの襲撃事件を起こさせなければストーリーねじ曲げられる感じかな?」
そしてもっと早く黒髪が認められれば。
やはり一刻も早くこの街を発展させないと。
「よし。明日は私が1人で買い出しに出よう。」
荷物の転移先を指定して送る魔法くらいなら人前でやっても驚かれないだろう。市場に出回っている噂を拾って、ついでに侯爵家の様子も見てこよう。
メロに会えたらラッキーなんだけど。
「会いたいな…メロ…。」
切なる願いは静かすぎる空間によく響いた。




