臆病なだけ。
「貴女のことだから、私達の時のようにヘラヘラしながら引き込むかと思ったわ。」
二人しかいない車内は機械の動く音だけが妙に響いていて気持ち悪かった。そこにポツンと落とされた呟きはそれを払拭する程のものでは無かったけど。
「人のトラウマを抉ってくる人間に好意持てます?」
「あの子は知らなかったのだからしょうがないじゃない?」
「知らないからこそ、踏み込めるラインを見極めなきゃいけない。親しき仲にも礼儀ありと言われているのに、初対面で礼儀を弁えないのはどうかと。」
初対面で地面に人間を埋める奴の言うことじゃないわとため息をもらってしまった。解せぬ。
「怖いんですよ。」
「どうして?」
「忌み嫌われるのが当たり前な私達は、あのような好奇心丸出しの瞳に耐えられないんですよ。」
私やレイル君はまだ恵まれている方だ。もっとずっと嫌われてる黒髪だって沢山いるはず。嫌悪ではないとはいえ、先程のようなのは躊躇われる。
「まぁ人間は黒髪を遠ざけるからね。エルフや獣人は寧ろ大歓迎なのに。」
「何故黒髪は忌み嫌われるんですかね?」
「元々黒髪は数百年前の戦争の要だったのよ。圧倒的な魔力で戦場を蹂躙して人間の勝利に貢献したの。」
「それなら英雄扱いでは?」
「力を持ちすぎたのよ。数が少ないといえど、個々の力は国1つ簡単に滅ぼせるからね。厄介なことに彼等は戦争に参加こそしたけど、それ以降国の為に動く気はないと公言したの。」
「万が一自分達に矛先が向いたらマズイと迫害したんですか?そんな理由で?」
「いつの時代も、上の人間は自分の地位の事しか考えてないわ。」
黒髪嫌いは確かに浸透してるけどそれはあくまで人間だけで、同じように助けられたエルフや獣人は感謝こそすれ嫌うことはないわ。
そう言ってトゥコーテンさんは優しく微笑んでくれた。納得といえば納得。どの時代でもどの世界でも上に立つ人間は同じらしい。
「その戦争ってどこと?」
「所謂魔族ね。」
「なるほど…。私がまだ子供だからかもしれないですけど、そんな文献1つも見たことないです。」
「意図的に残さなかったのでしょう。真実が明るみになって糾弾されるのは王家だし。限られた人間にひっそりと口伝されてるんじゃ?」
獣人は分からないがエルフはちゃんとその史実が残っているらしい。
記憶から先代の日記の内容を引っ張り出しみるが、そのような事実は記されてなかった。いや、見落としただけかもしれない。帰ったらもう一度読み直してみないと。
「買い出しの時は周囲に警戒しないとですね。」
「此処が知られるのは嫌なの?」
「…侯爵家が乗り込んできたら面倒なのでまだ…。」
このアルテナを最高の状態にするにはまだまだ時間がかかる。こんな序盤で邪魔が入っては、折角幸先の良いスタートだったのに暗雲が立ちこめかねない。
やはり食材は魔法で…、いや、土魔法に特化した子がいれば成長を促せる…?魔法の練習にもなって一石二鳥?
「ほら、着いたわよ。きっと皆が美味しいご飯作ってくれてるから、早く行きましょう。」
とっくに停車していた電車は私達が降りるのを待っていたらしい。トゥコーテンさんに首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られる。
なんか私の扱い雑過ぎでは?とも思ったけれど、明日からのプランを考える方にさっさと思考を切り替えてそのまま身を任せた。




