そうです私が侯爵令嬢です。
「初めまして!ルーヴです!」
「あ、どうも…。サラです…。」
何故こうなった。
あのまま突っ立って会話も嫌だったので城壁内の会議室でトゥコーテンさんと3人、顔を付き合わせることとなった。他の子達はあの後やってきた電車に乗って先に帰ってもらっている。皆が作った美味しいご飯楽しみにしてるねと言えば元気な返事が返ってきた。着く頃には図書館組も起きてるだろう。
「にゃにゃにゃ!?」
「どうしたのよ?」
「エルフさんはオズマン侯爵の娘さんが行方不明なのはご存知かにゃ?」
「私は隣のドルベルドに居たからそんな話はしらないわ。そして私はトゥコーテンよ。」
「おやおやおや!トゥコーテンさん!まさにこのお嬢さんはそのご令嬢だとアタシは思いますよ!」
あ、ヤバい。と思った。
トゥコーテンさんは頭をぐりんっ!とこちらへ向けて視線を飛ばしてくる。
「はぁ!?サラが侯爵令嬢!?そんなわけないじゃない!」
「トゥコーテンさん…。」
「この子と出会ってから1度も令嬢らしい所なんて見たことないわよ!?カーテシーの【カ】の字もありゃしない!」
侯爵令嬢と知られたくない訳ではなくたまたま言わなかっただけだが。これなら先に言っておいた方が良かったのかもしれない。まぁ記憶戻った段階であんな堅っ苦しいマナーとかごめんなさいだったので、結局今の振る舞いのままだったろうし言っても信じることはなかったと思うけど。
ルーヴさんの期待の目を曖昧に笑って誤魔化しつつその話を聞いてみるが、まだ私が行方不明の話は領内だけで他領には漏れていないようだ。領民の反応は【黒髪でも大事にしてくれていた侯爵様があまりにも可哀想だ】と、概ね予想していた通りで思わず鼻で嗤ってしまった。
「私を視界に入れるのすら嫌で王都で仕事に没頭している男が可哀想ねぇ…。」
「え?貴女本当にそうなの?」
「別に隠すつもりはなかったんですけど。私がサラ・オズマンであるのは間違いないです。」
「おぉ!それで!?それで!?にゃんでこの森に!?」
サラが貴族……って信じられないものを見るような目はやめて欲しいですトゥコーテンさん。流石にちょっと傷付きますよ?
「『黙れ』、『動くな』。」
「…?っ!?」
「この森が気になるのは分かりますが、ここは私が天寿を全うするのに必要不可欠な場所なんです。住民でもない貴女に詳細をペラペラ喋るわけないでしょう?ガキだからと甘く見ないでください。貴女は今身動きも出来ずに声も出せない。いいですか?生殺与奪の権利は私にあるのです。」
曖昧に流してきていた私の豹変にルーヴさんの目が見開かれたが、ズケズケと聞かれて気分が悪くなるのはしょうがないと思う。日記の内容を必死に思い出してそれらしき人物が登場していなかったから扱いに困っていただけで、私は弱くない。はず。
「お帰りください。そしてこの地を二度と踏まないでください。」
その城門を開けられることすら出来ないですけど。
動けない彼女をトゥコーテンさんに外に出してもらい、踵を返す。隣の視線が妙に鋭くて着心地が悪い。しょうがないじゃないか。
私は死にたくないもの。




