詠唱なんて恥ずかしいもの出来ないです。
さて、残った私達は畑の仕事も終えたので自由だ。お昼ご飯は仕方ない私が作って振る舞うしかない。備蓄庫の中身と相談しなければ。
出掛けていったメンバーとは反対方向の、これまたタイミング良くやって来た(勿論調整済み)電車に乗って中央街へと戻る。車内で飽きもせずはしゃぐ子供達を放置気味に私はレイル君と向かい合って座っていた。
「魔法を使ってみてどうだった?」
「やはり知識だけあっても実践ですぐに使うのは厳しいね。早くトゥコーテンさんやサラのように使えるようになりたいかな。」
私に対しても打ち解けてくれたレイル君は楽しそうに言うが、
「アタシは詠唱出来ないから、教わるならトゥコーテンさんにしてね。」
申し訳ないが私は詠唱しなくても魔法が使えるので参考にならない。正直呪文書とか渡されても恥ずかしくて詠唱したくないが。
「サラは詠唱無しで魔法が使えるのか…。」
「いや、そういうわけでもないんだけど。トゥコーテンさん曰く前例が無くて分からないって。」
見るからにしゅんとする彼に私が規格外なだけだと説明してもなかなか浮上してくれない。
「図書館には呪文書とか魔道書とかも揃ってるから一緒に行こうか。あとで魔法の練習場も造るから、ね?」
自分の方が年齢は下なのに前世の年齢が成人間近だった為か、どうしても言い方が上からになってしまう。素直に頷いてくれたから特に気にしてはなさそうだけど。
「私も魔法使いたーい!」
「僕も!レイルお兄ちゃんみたいに凄くなりたい!」
「お、じゃぁ戻ったら皆で図書館で本読もうか。」
「読むー!」
私達の話を聞きつけた数名が後ろから覗いてきたり隣に座ってきた。読むと言っているが、果たして文字は読めるのだろうか。
これは読み聞かせになりそうな予感。
「おっきーい!ひろーい!」
「皆、今は私達しかいないからいいけど、図書館は静かにすると所だから気を付けようねー。」
優しめに注意すれば小声ではーいと返ってくるのが素直でよろしい。
戻ってきて早めのお昼ご飯を済ませた後やって来た図書館は前世で通っていたそれの内装に似ていた。まぁ図書館なんて本の数が違うだけで、それ以外は何処も同じかもしれないけど。
結局全員でやって来て各々好きな本を取り出しているが、果たして皆読めるのだろうか。先程電車で魔法の話に食い付いた子達は、レイル君に続いて2階にあるらしい魔法系のブースへ移動したようだ。
あっちは彼に任せて残りの子達の相手をするのが良さそうだ。
「サラお姉ちゃん、文字の読み方教えてー。」
「ん?いいよ。ちょっと待っててね。」
どうやら集まってきた3人は読めないらしい。意外と高い識字率に大人組の優秀さを垣間見た気がする。
さて、教えるにしてもどこに関連した本があるのか。建設はしたが中まで細かく設定したわけではないのでどうジャンル分けされているのか分からない。
「んんん…。『来い』。」
人間の行動を制限できるくらいだし、本も呼び寄せることが出来るのではと試しに呟いてみる。しかし反応がない。
と、思いきや。
「うわっ!本が勝手に!?」
2階からレイル君の叫びが聞こえてきたので見上げれば、ふよふよと漂う1冊の本。こちらに向かって下降し、座っている私の膝の上に綺麗に着地した。どうやら成功したらしい。
「すごーい!魔法!」
「サラちゃん早く教えてー!」
「ちょ、待って!落ち着いて!静かにだよ?しーっだよ?」
自分も他人のこと言えないくらいに大声を出してしまったが一応図書館である。口元に人差し指を持ってきてジェスチャーすれば、真似っこ大好きらしい彼女達は揃って同じ動きをして静かにしてくれた。
そこからは疲れて全員寝てしまうまで、ひたすら小声で発音を練習していたのである。




