とある一冊の本によると。
「あ、この本懐かしいねぇ。」
「うん。なんか久しぶりに読みたくなっちゃって。」
棚の奥から取り出されたことが分かる、少し埃被った一冊の本。持ち主のお気に入りだ。
「アタシ、これの悪役令嬢結構好きだったのよねぇ。」
「私は王道にヒロインかなぁ。最後の王太子と一緒に描かれてる挿絵がすごく綺麗で好き。」
「それは分かるかも。どこだっけ…。」
友人が手に取りパラパラと捲っていく。
「あった…、え?」
「ん?どうしたの?」
「挿絵が…。」
困惑の声に持ち主が聞けば、友人が該当の絵を見せてくれる。
しかしそこには、ヒロインと王太子は存在せず。
「これ、悪役令嬢と…誰…?」
本来であればヒロインが王太子に肩を抱かれ微笑んでいるはずなのに、そこには教会の前で花束を投げている悪役令嬢、ヒロインの妹が。その隣には見たことのない同じ黒い髪らしき男が微笑んでいた。
「え、ちょっと待って。どうなってるの?」
「違う本…じゃないよね。タイトルだって、うぇ!?」
持ち主がソファに座る友人の前に移動しかがみこんで表紙を確認する。
しかし、そこにも書かれているはずの文字がなく、まったく違うものになっていた。
状況に頭がついていけず二人して無言になること数分。友人が最初のページに戻り登場人物の確認を始める。
「………これ、全然違う話になってるみたい。ヒロインが悪役令嬢で…さっきのは第二王子だって。」
「え!?第二王子って病死か何かでストーリー時点では既に亡くなってるってあったよね!?」
スピンオフ作品やIF作品が出たなんて聞いたこともないし、同人誌を購入したことだってない。
勿論、持ち主が自身で創作したことだってない。
「…他の人が持ってる本も全部コレになってるのかな…。」
「どうだろ…。でも、なんか、これはこれで良い気がする。」
友人は超常現象を目の当たりにして驚きはしたものの、受け入れるのが早くそのまま読書の体勢に入ってしまった。こうなると彼女は読了するまで動かないのは分かっているので、持ち主は戸惑いつつ向かいの席に戻って自分も中断していた作業を再開させた。させたが、内容が気になってしょうがない。
ちらちらと視線を送っていると、友人が本を持ち直した時に表紙の彼女と目が合って微笑まれた気がした。
少々無理矢理な気がしますが、これで完結です。
後日活動報告を上げますので、そちらも確認していただければと思います。
予定よりだいぶ長くなりましたが、読んでいただきありがとうございました。