無事に帰れるといいね。
「失礼します。」
撃沈した皇太子を観察しながら各々ゆっくりしていると、ノックとともにメロが入室してきた。
「どうしたの?今日は学校じゃなかったけ?」
「本日の授業をロシュロール殿下にお願いしたくお邪魔させていただきました。」
「私かい?」
突然話を振られた殿下は目を丸くしてメロを見ている。聞くに、アシュモード陛下から「こちらでロクに仕事もしないでフラフラしてるから、そっちで何かの役に立つように使ってくれ」と。
それならばとカイル様が学校で使ってやろうと決めて色々考えてたらしい。
「他種族についての授業を前々から行っていたのですが、アルテナには魔族の数が少なく、交易の方でお忙しくされているのでご迷惑になるかと声を掛けるのが難しく…。悩んでいたところ陛下からありがたい言葉をいただけたので、殿下がお越しになった時に頼みましょうってことになりました。」
そういえば陛下のお手紙がーって誰かが言っていた気がする。交易品と一緒にあったのを回収したけどどうしようかって聞かれた記憶が…。父とカイル様が何とかしてくれると思って押し付け…お願いしたやつだな。
父も覚えていたようで頷いている。当の殿下はメロが持っていた資料をもらって目を通していた。
「確かに殿下だったら知識豊富だろうしもってこいだよね。殿下が先生とか…。」
「レイル君、笑いを堪えきれてないから。」
教壇に立つ殿下を想像したのだろう、レイル君が肩を震わせている。また喧嘩になるから我慢してほしい。切実に。
「陛下が言うならしょうがないか。メロ、これっていつからだい?」
「それは殿下の都合でよろしいかと。」
「じゃぁ今から行こうか。これ以上ここに居ても面白いことにならないだろうし。」
流石に今からは思ってもいなかったからだろう、メロは驚いて固まっている。ほらほらとメロの背中を押しつつ、こちらに意味ありげな視線を寄こしてそのまま退室した。
面白がることじゃないし、今の視線はなんなんだと父と一緒に不思議がっているとレイル君も立ち上がって出ていこうとする。
「僕も病院に戻らないと。先生に怒られちゃう。」
「間違いなく怒っていると思うよ。」
「…さぁ、皇太子さんも一緒に帰りますよ。」
レイル君に分かり切ったことを言えば無視された。
「は?私も?まだ話は…。」
「終わりましたよ。交渉は決裂。実力行使望むところでーす。ほらサラ、拘束解いて。」
「え?わ、分かった…。」
自由になった皇太子はレイル君にがっしり腕を掴まれて一緒に扉に向かう。痛い!とか聞こえない聞こえない。不敬罪にはならないならない…。
交渉する気にもならない内容だったけど、実力行使はご遠慮願いたいのだが。勝手に決めないでほしい。
そんな風に不満をぶつけようと思ったけど、皇太子の影が揺らめいていたのを見てハッとする。そして先程の殿下の視線の意味を理解した。
皇太子…無事に帰れるのだろうか。




