ただ引きこもっていたいだけです。
「デンシャ、速いー!」
「サラちゃん!他にも速いのある!?」
「サラちゃん遊ぼー!」
なんだコレは。君達、昨日の警戒心をすぐに呼び戻しなさい。
なんて心の中で説教したくなる程フレンドリーになった子供達に疲労困憊の顔を見せないように必死に表情を取り繕いつつ、トゥコーテンさんを睨む。何をどうやったらこんなに懐くようになるんだ。どんな説明したのだトゥコーテンさん。
当の本人は知らんぷりでレイル君とお話している。彼も黒髪だから恐らく魔力は高いだろう、魔法使いとして今後生きるにあたっていろいろ彼女に相談しているようだ。
「昨日こっちに来る時に乗ったやつはなんて名前なの?」
「あれはバスです。ちょっと揺れが激しいので改良しないとですけど。」
「確かにこれに比べると左右に揺れてたわね。」
「バスも楽しかったよ!」
「他にもないの?」
大人組も混ざってバスの話もすればやはり揺れが駄目だったのか、少し眉間に皺が寄ったのが数名。
「あれより一回り小さい、街を巡回するバスを用意するつもりよ。速くはないけど、その分外の景色を楽しめるよ。さぁ、着いたから降りようね。」
電車が停止したのを確認して立ち上がれば両手をそれぞれ掴まれまた走り出す。だから、そんな元気ないよ私。
「貴女って本当に規格外ね。」
「誉め言葉として受け取っておきます。」
決して広くはない、でも個人の畑を楽しそうに耕し始めた皆を見てトゥコーテンに言われる。彼女はさっさと魔法で種まきまで終わらせて私の横にやってきたのだ。「トゥねーちゃんずるい!」とか「アタシも魔法でやりたい!」とかキャッキャしているのを見て微笑ましくなる。レイル君は早速魔法の練習をしているらしく、土に向かってブツブツ言っていた。あれが詠唱なのかな。
「とても平和ですね。これから活気が出てくると思うとワクワクします。」
「感謝してるわ。図書館まで建設されてるから覗いてみたら、医療用も充実してるし。子供達の識字率も上げられそう。」
「皆さんが快適に過ごせるならもっと発展させてみせますよ。」
「…。貴女、何が目的なの?」
出会った当初の訝しげな目で見つめられ肩を竦める。まぁ普通に考えてこんな条件の良い環境で生活出来るよ!なんていきなり言われたら怪しいけど。
「私は長生きしたいんです。」
「は?」
「黒髪だからと虐げられ若くして命を落とす。そんな同族達が他の人間や種族と楽しく過ごして天寿を全うして欲しいんです。」
本音は私が死にたくないだけだが。
彼女が納得してくれるだろう模範解答をそれに合う表情で伝えれば、どうやらやり過ぎたらしい。感動して泣き始めてしまった。
「サラ…苦労してたのね…。」
「まぁ、黒髪ですし。って泣かないでくださいよ。」
「お姉さんだと思ってくれていいのよ」とハンカチ片手に言われても、苦笑いしか出てこない。オズマン家はどうなっているだろうか。主にメロの心配なのだが。
簡単な魔法を教えてもらって成功したのか、作業はほとんど終わったらしい。皆優秀で何よりだ。
「この後はどうするの?」
「各自自分の仕事が終われば基本的に自由に生活してくれて構いません。図書館に入り浸ってもいいですし、反対側の城門から出れば海がありますのでそこで釣りをしても遊んでくれても構いません。ただ、まだ防御面は不安が残るので、整うまでは何かあっても助けに行くのに時間がかかることだけは頭に入れておいてください。」
「分かったわ。」
「それと、畑の作物が育つのにはどうしても時間がかかるので、しばらくは外に買い出しに行くことになってしまいます。自給自足が出来るまでは私の方から資金は出しますので安心してください。」
至れり尽くせりの対応に申し訳なさを感じてるのか少々居心地悪そうな大人組に対して、遊べることやお出かけできることに歓喜する子供組。ずっとデンシャ乗るーとか聞こえた気がする。飽きないのね、恐ろしい。
約20人分の食材の買い出しはかなり厳しいので大人1人を残して早速出かけるようだ。お手伝いで着いていく子供達が誘惑に負けませんように。
「このまま城門まで乗れば良いんですよね?」
「そうです。で、扉にさっきのリストバンドかざしてもらえれば開きますので。」
「帰って来たらまた乗って帰ってくるのよね?」
「はい。城門に電車が到着する時間は駅に描いてありますので、その時間に合わせて戻ってくると良いかと。」
「わかりました。」
タイミング良くやって来た(調整したのだが)電車に乗り込むメンバーに若干不安そうな顔があるが、トゥコーテンさんがいるから大丈夫だろう。
「では行って参ります。」
「気を付けて。いってらっしゃい。」




