名前を呼ばれることの嬉しさよ。
「あ!サラ様帰ってきてるー!」
「ホントだ!今度はいつ学校来てくれるのー?」
こちらに手を振ってくれる女の子達に笑顔だけ返して。
「サラ様おかえりなさい!」
「おや、今日も元気に走り回っちゃって。」
「レイル様に早く会いたくて仕方ないのよ!愛よ、愛!」
カフェのテラス先でゆっくりしているオバちゃん達の楽しそうな会話を耳が拾ってツッコミを入れたいのを我慢して。
「わぁ!どうしました?レイル様は退院してお仕事に行かれましたよ?」
「あら、いいところに。ちょっと実験に付き合ってくれない?」
「サラ様!魔法陣の件聞きました!ごめんなさーい!」
居るかもと寄った病院で彼はいないと言われ、顔を出したトゥコーテンさんに引っ張られる前に脱出をして。背中にパーシィさんの謝罪を受け。
「おかえりなさい。トゥ先生の故郷はどうでした?」
「戦争も深夜に動きがあったみたいですが、こちらに被害がほとんど無いようにご自身が動いたと今朝レイル殿から聞きましたよ。まったく、あの人は無茶なさる…。」
役所に入ってすぐの受付で職員さん達に温かく迎えられ、その言葉に疑問を抱き。
「サラじゃないか。随分と戻ってくるのが早いと驚いたが、カイル殿から色々聞いたよ。」
「…っ、父さん!」
「おい!何故泣く!?」
執務室の扉を壊さんばかりに引き、中に居た父に声を掛けられて言葉が出なかった。急に泣き出した私に父はたいそう慌てて、書類を撒き散らしながらこちらへ来て抱き締めてくれる。
ここに来るまで、全てがいつも通りだった。転移せずひたすら走ったのは、レイル君の手紙の内容を確かめたかったから。
皆、私の存在を認識していた。当たり前のように。数日前のように。
「……レイル君から報告は受けてますが、一応父さんからも聞いていいですか?」
「あぁ、構わんが…。とりあえず泣き止んでくれ。」
私がレイル殿に殺されると胃を擦りながらもソファに移動する父。それに続き着席すれば、私達がここを出発してからのことを簡単に説明してくれた。
最初は特に問題なく聞いていたのだが、途中から違和感。父の感覚だと、今日はリーナがあの呪いを打ち込んだ翌日になっている。ここ数日のズレが生まれていることにレイル君が見つけた新機能がなんとなく分かった気がした。
では、事情を知る人達は逆にどうなったのだろう。逃げないでトゥコーテンさんに確認すればよかった。
「ありがとうございます。それで、レイル君は今どこに?」
「昨夜の奇襲時に怪我を負って病院で治療していたが、軽傷だったようですぐ退院してこちらで仕事の手伝いをしてくれているよ。今は交易課にいるんじゃないかな。」
王太子妃の襲撃は城壁の破損のせいで無かったことには出来なかったのだろう。だから深夜に自分で片付けたということにして誤魔化したに違いない。
父にお礼を伝えて、言われた通り交易課に向かう。あそこには事情を知ってる魔族さんもいるしちょうどいい。
家を飛び出した時に持ってきていたメモをポケットに突っ込んで、今度こそ彼のもとへ。




