流石ですね、ありがとうございます。
「先日ぶりですねティオさん…。それと、お久しぶりですロシュロール殿下。」
「やーん!ちゃんと話聞いてたから無事なのは分かっていたけど、怪我も無くて良かったわぁ!」
「お久しぶりです。知らぬ間に獅子殿と仲良くなられたようで…。」
ティオさんの熱烈なハグで視界を遮られていたので気付かなかったが、向こう側に久しく見てなかった顔を確認。殿下は周辺の見回りの報告かな?とも思うが、ティオさんがここに来る理由が分からない。
「本日のご要件は?」
「私はご報告と謝罪を…。」
「アタシはここの男共に喝入れに来たのよー。サラちゃんが到着する前に別の魔術師と連携して追い返すことくらい出来たはずなのにさー。」
そのまま彼女が愚痴りだす。なるほど、だからコッソリ案内されてる途中に遭遇した皆さんの顔色が悪かったのか。何体か屍が転がってたし。こってり絞られたらしい。
あの時はレイル君の指示であぁなったわけだから彼等を責めるのは違う気もするが、余計ヒートアップしそうなのでお口チャック。
そっと殿下の方に視線をやれば、意図が分かったらしく横の彼女を放置して報告を始めてくれた。
やっぱり見回りの報告だった。それと、私を疑った謝罪。
「もう終わったことなんでいいですよ。」
「しかし…。」
「悪いと思うなら、これからもアルテナをご贔屓にしてもらえればいいです。私はもう関与しませんが。」
「それは勿論です!」
バッと頭を下げもう一度謝罪した彼は何かを期待するような視線を向けてくる。
「サラ殿はこのまま隠居すると?」
「まぁ、そうですね。ほとんどが私のこと記憶から消えてますし。」
「では!是非ヤシュ「黙れ腹黒」…失礼ですよ獅子殿。」
おぉ、二人の間がとても寒そうだ。吹雪が見えるよ、うん。
残念ながらヤシュカに行くつもりはない。観光で行ってみるのも良いかもとは思っているけど、今はアルテナが不安定だから近くで様子を見ていたい。
レイル君が滞りなく此処を運用できるようになったら、その時はこっそり旅行しよう。
「お二人とも、今日はこのままお帰りになるのですか?」
「アタシはトラに任せてあるから少しだけ滞在する予定よ。」
「私は交易課での用事が済んだら帰国しますよ。巡回はもう数日続けさせますのでご安心を。」
ティオさんの言葉に首を傾げる。トラの獣人さんに頼んだのかと思いきや、トラって名前のウサギの部下だそうで。すぐに向こうでお世話になった獣人さんを思い出すが、ウサギなのにトラって…。紛らわしい。
殿下の配慮に感謝して、解散かとそれぞれが席を立つ。私はフードを被り転移の準備をする。魔法使うならいいじゃないかと思うだろうが、万が一変な所に飛んだ場合の対策だ。
「それではティオさん、アルテナ観光楽しんでください。殿下は情勢が落ち着くまでアルテナとレイル君のこと、よろしくお願いします。」
二人は私が転移するのを見送ってくれるらしい。足元が光りだして、その向こうでティオさんが手を振っているのが見えた。
しばらく会えなくなるかなぁなんて少し寂しくなりながら自分も手を振ろうと左手を上げた時。
「ロシュロール殿下にお願いするまでもないよ。」
その手首を掴む体温と、つい最近聞いた声。




