コッソリ戻ってくる予定だったのに。
彼女の後ろに見える火は彼のものか。
更にその向こうに見えるのは帝国の人達か。
向こう側は後でいい。今は。
「『折れろ』。」
「っあぁぁぁぁああ!?」
彼女の持っていた剣が激しい音を立てて落ちる。次いで響く絶叫がとてつもなく不快だ。
「王太子妃、答えなさい。コレは何?」
「ひぃっっ!」
「答えろって言ってんのよ。ころ「サラ!」、カイル様。」
こちらの質問に答えない王太子妃に更に魔法を叩き込もうとすれば、汗だくのカイル様にとめられた。なんかとても久しぶりな感じ。
「お久しぶりです。報告はもらってましたが、無事で何よりです。此処は私が片付けるので、カイル様、彼を。」
「現在進行形で回復してもらってる!だから落ち着け!」
その言葉に後ろを振り向けば、城門のすぐそばで治癒士と思われる人達がレイル君に魔法を飛ばしてるのが確認出来る。
良かった、これなら手遅れにはならなそうだ。
それでもこの場に居るのは危険なのでカイル様にお願いして一緒に下がってもらう。
「お待たせしました、続きをしましょう。私が不在の間に何しようとしたんですか?」
「ひっぃ!」
「ほーら、答えないと腕も折りますよ?」
「ゃっ!帝国に殿下が捕まって!解放の条件で貴女の首を…!」
完全に鎮火したのか、王太子妃と私を囲うように帝国軍が移動してきた。
シュゼールへの肩入れを牽制して放置かと思ったら、あわよくばアルテナもってことかな?エルフの国で聞いた話じゃ王太子は始末されるみたいだし、彼女は体よく利用されただけなのだろう。
だからといって同情はしないけど。
「残念ながら貴女に協力は出来ません。大人しく王太子と一緒に死んでください。」
こっちは急いで帰ってきて疲れてるってのに。戻ってきたら城門前でバチバチやってるし、その横燃えてるし、よく見たらレイル君右肩真っ赤だし。
心臓止まるかと思ったよ。
「帝国が何を考えてるかは分からないけど、私達関係ないんで。『折れろ』。」
大人数いっぺんにいけるか試して無かったので不安だったが、四方八方の悲鳴で成功したのだと悟る。
そのまま輪から抜け出して一度カイル様達に手を振ればドン引きされた。解せぬ。
「生きて帰れたらでいいんですけど、もう二度とこちらに手を出すなと言っておいてください。『押し流せ』。」
前回使った時と同じようにシーンとなるが、今回は気まずくはない。
後ろに海があるからこそこの魔法を使ったわけだし、これなら死体となっても遠くに流れてからだから見なくてすむし。
空が暗くなり磯の香りがしたことによって魔法が成功したことを確認。
地面を抉り、近場の建物全てを飲み込んで流れていく水を少し眺めてから、城門に近寄らずそのまま転移。
記憶の無い彼とちゃんと対面するのが怖いから、逃げる。




