【???side】新城主、壁の花と再び
「皆さんのおかげで追い返すことが出来ました。ありがとうございます。」
「お礼なんて言わないでください。それよりも…。」
「はい。スヴェン殿、城門からの報告は本当なのですか?」
シュゼールの強制召集を断ったことによって始まった戦闘は魔術師の皆が追い返してくれたことによって終了。安心して戻ってきてもらったところに再び城門からの報告があったようで。
「事実のようです。モニターでも確認してきました。…帝国軍が、攻めてきました。」
「欲が出たか。まだ到着はしていないのだろう?」
「警備用の鴉の映像ですと、あと数時間はかかるかと。」
まだ到着していないだけ良かったと思うべきか。スヴェン殿とカイル兄さんの会話を耳にして、この後の動きを決めなければ。
もう一度魔術師を派遣したい所だが、まだ完全に回復していない彼等を向かわせるのも酷だ。トゥ先生の薬を使ってもいいが、あれもそんなに数はない。今追加で作ってくれているが、数時間でどれだけ増やせるのかも分からない。
「………僕が足止め、可能であれば追い返します。回復次第皆さんは戻ってきてください。」
「レイル、病院から治癒士を連れていけ。お前は回復を任せて攻撃に専念しろ。俺もヤシュカに要請を出してから向かう。」
「分かった。」
どのくらいの兵力か分からないけど、僕一人でも多少は時間を稼げるだろう。カイル兄さんの言葉を背に病院に飛び、治癒士を3人ほど借りて更に城門に飛ぶ。
すぐに駆け寄ってきたゾンデルさんから詳細を聞きつつ外に出れば、遠くに薄っすら煙が見える。相当馬を酷使しているのか、思った以上にこちらへの到着が早そうだ。
「僕は攻撃に専念しますので、定期的な回復を頼みます!」
「えぇ!?レイル様お一人で止めるつもりですか!?」
「じきに兄さんや他の魔術師も来る!それまでは頼みますよ!」
後ろに被害がいかないように、少し離れて詠唱を始める。自分より遥かに大きい火の玉を作れたところで、いっきにソレを帝国軍向けて放つ。
大丈夫、メドニエの時だって上手くいった。ちゃんと綺麗に葬れる。
「っ!」
「やはり出てきましたね…。申し訳ないですけど、そこを通させていただきます…!」
燃え盛るその向こうから飛び出してきたのはシュトング辺境伯令嬢。手にしている長剣が真っ直ぐに向かってくるが、防御壁でいなして距離を取る。
先生達の報告では、彼女は義弟とエルフの森で捕縛される予定では?
いや、今はそんなこと考えてる余裕は無い。この火が消えるまでは後ろの帝国軍は足止め出来るが、それも長くない。
一刻も早く、この令嬢を仕留めなければ。
 




