鴉が鳴くから。
カァ。
「ん?鴉?」
メドニエに彼を飛ばした後ティオさんにアルテナに戻るまでの最短ルート等を教えてもらい、途中で食糧調達をして小屋に戻ってきた数時間後。
結局すぐ出発することになってしまったので荷物を広げるわけにもいかず、お腹を満たしながら地図でルート確認をしていると、すぐ横の窓から小さな鳴き声。暗くて把握するのが遅れたが、真っ黒な鴉ならしょうがない。
「これ、監視鴉だ。ってことは、メドニエの確認が終わってアルテナに戻ったわけか。」
あまりにも早い気がするが、何の手掛かりもなくさっさと切り上げてトゥコーテンさんに報告しに戻ったのだろう。報告書にもだいたいそんな内容が書いてあり納得する。
それにしても、この鴉鳴くようになったのか。必要ないと思ってそんな機能付けなかったけど、今回みたいに気付かない可能性もあるしありがたいかも。
まったく、本当に優秀な新城主だ。
「城門前のシュゼール軍は魔術師達の攻撃により撤退。この辺はティオさんから聞いたままか。損害は塀の一部に少しヒビが入った程度で、ゾンデルさん達が既に補修作業に取り掛かってると。」
続けて書かれている内容に、やはりレイル君は参加していなかったのだと判断。損害の規模で判断してしまうのもどうかと思うけど。この程度なら箱庭をいじる必要もないくらいだろうし、ゾンデルさん達の作業だけで問題ない。
あとは帝国との戦争の方だが、事前に王太子が言っていた通りそこまで大規模なものにはなっていないようだ。きっともう城内は帝国からの精鋭に制圧されている可能性だってある。
こちらに害は無さそうだし、そこに関しては帰ってから聞いてもいいかもしれない。
「あとは……、ヒェッ!」
2枚ある報告書のうち1枚を読み終えたので、次をと目を向けて小さく悲鳴。
先程のそれは魔族さんからだったが、小さな文字でみっちりと書かれているこれはトゥコーテンさんの筆跡で間違いない。
謝罪から始まっているが、全然謝ることなんてないのに。寧ろ2人が無事でいてくれて良かったと思っているのに。
ちょっとだけしんみりしてしまったが、続く文章は、
「めちゃめちゃ怒ってる…。怖い…。帰りたくない…。」
涙引っ込むって。いや、確かに他人を飛ばすのは安定していないけども、成功したようならいいじゃないか。寧ろ成長してることに対して褒めてほしいのだが。
もうコッソリ帰って小屋で指示だけ出せばいいのではとも思い始める夜更け。
返信待ちの鴉が急かすように、窓際で小さく鳴いた。




