【???side】治癒士は願う②
「スヴェンさん!レイル!」
左手にある手紙は最早ぐちゃぐちゃ。そんなのも気にしていられないくらい急いで役所の執務室に飛び込めば、項垂れるカイルに不思議そうな彼女の父親と婚約者。
病院も駄目だった。つまり街は全滅。
でも此処だけはと思っていたのに。
「…病院は?」
「駄目だった。これ、サラから。」
皺だらけの手紙を渡すと一瞬文句を言いたげな視線を寄越されたが、送り主の名前にすぐに反応して丁寧に元通りにして読み始めた。
それを確認して残りの二人に向き直る。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさい先生。無事に帰ってこれて安心です。」
「故郷や帝国でのことはこちらの報告書にまとめてあるので確認してください。…それと、此処の城主は留守ですか?」
ダメ元で恐らくカイルがしたであろう質問を繰り返す。
お願い、彼女を否定しないで。
「先程兄さんにも聞かれましたが…。サラ?さんでしったっけ…?この都市にそのような方は存在していないですよ?」
「先生も知っての通り、此処を作ったのはレイル殿だ。私はその代理に過ぎないしな。」
自然に返ってきた不自然な答えに自分の中の何かが弾けた音がした。
気付けばありったけの力を籠めてレイルを殴り飛ばして馬乗りになっている自分を、カイルが必死に引き剝がそうとしているというカオスな状況。
「やめろトゥ!!弟達はあくまで被害者だ!悪いのは…!」
「分かってるわよ!!でも!いくらなんでも!こんなのひどいじゃない!」
黒髪ってだけでずっと迫害されて、やっと自分の居場所作って楽しそうにして、隠してるつもりだっただろうにレイルがいないだけでソワソワして好意があるのバレバレで。
それを自分の手で終わらせないといけなかった絶望を、一人きりでやらないといけなかった彼女を思うと、
「あの子一人で帰さないで無理矢理にでも一緒に帰ってくればよかった…。」
隣に居れたら何かが変わっていたかもしれない。解呪が出来ないにしてもヤシュカに応援要請しに行くことだって可能だったかもしれない。
どんなに考えたって今更なのだが。
「…スヴェン殿、近々メドニエの方でもいざこざが起こると思われます。そこで娘さんが亡くなっても問題ないですか?」
「え?あぁ…あの子と母親は既に離縁もしてるし、何も問題はないが…。」
「兄さん、その手紙はメドニエからなのですか?」
カイルの手元を見て険しい顔になっているレイルは、コレがメドニエいる影からのものだと思っているらしい。報告や手紙に関してはそれ専門の部署があるから彼が持っているのが不思議なのか、彼女専用の便箋に無意識に反応しているのか。
「これはアタシの大事な友人からの手紙よ。さぁ、その報告書にも記載しましたが、戦争が始まります。今はそちらに集中しましょう。」
このままなんて絶対に嫌よ。
こっちはレイルをこき使って完璧に終わらせるから、貴女も貴女のやるべきことを終わらせて。
帰る場所は用意するから、お願い、帰ってきて。




