ドンマイ王太子。
案内された客間は小さな本棚が置かれていてよく見ると図書館にはない本が数冊。それらを読むのに夢中になってしまった私は食事の時間以外いっさい部屋から出ることなく一夜を明かしてしまった。
完全に寝不足である。
「ふぁ…。」
「あんな本なら持って帰っても文句言われないのに何やってんだか…。」
呆れ顔のトゥコーテンさんだが、彼女の目の下にも隈があるのを指摘すればボソボソと言い訳を零し始めた。
そんな私達だが現在は応接室の横の部屋の壁に張り付いている。盗み聞き体勢だ。カイル様はソファで優雅に紅茶をいただいている。
普段ならまだ完全にベットで夢の中だが、皇太子が来る前に帰るというミッションの為に急いで魔法陣へ!って屋敷を出ようとしたらまさかの皇太子到着の知らせ。早すぎるわ!とトゥコーテンさんが文句を叫びつつ近場の部屋に押し込まれたのだが、それが此処だったわけで。
「トゥコーテンさん耳良いんですよね?何か聞こえません?」
「流石に厳しいわよ。アンタこそ盗聴用の魔道具持ってないわけ?」
「持ってきてないから張り付いてるんじゃないですか…。向こうの窓さえ空いていれば鴉飛ばしたのに…!」
こっちを出る時に連絡してほしいとレイル君に言われていたので一体だけ鴉はいるのだが、窓が閉まっているので音が拾えない為断念。今のうちにコッソリ出ていけばいい気がしなくもないが、こうなってしまったら向こうの会話が気になってしまうもので。
「ちょっと行ってくるわ。」
我慢できなくなったトゥコーテンさんが部屋を飛び出して行くのをそのままの体勢で見送ってから、諦めて用意されたお菓子に手を付ける為にソファに戻る。カイル様は既に自分の分を完食して読書していた。
「どうせ聞こえないなら早々に諦めて私も本読んでればよかった…。」
「なかなか滑稽で面白かったけどな。トゥと一緒に出てってそのまま森の入り口まで案内してもらえばよかったのに。」
苦笑いのカイル様がかたわらの本を貸してくれたので、お行儀悪いがクッキーを摘まみながら文字を追う。これも見たことないやつだ。落ち着いたら定期的にこちらに来て借りようか悩むなぁ。
ページを捲る音と咀嚼音だけで静かな空間はそう長くは続かなく。パタパタと廊下を走る足音を耳が拾ったのと、隣の部屋の扉が開いた気配がしたのはほぼ同時だった。
「アイツまさか隣に乗り込んだのか…?」
「変装して…ってのは有り得るかもしれません…。」
なんとなくキルト君の叫びが聞こえる気がする。おおかた彼に無理を言って何かしらをしたのだろう。自分の故郷だからか分からないが、だいぶはっちゃけていないかトゥコーテンさん。カイル様も流石に気になるようでチラチラと視線が壁に向いている。
どれくらいそうしていただろう。またパタパタと足音がして、今度は私達の部屋の前で止まる気配を感じ視線を送れば開いた扉からはキルト君…に似たトゥコーテンさんの姿。
「王太子、戦争後に消されるそうよ。」
いや、どこからツッコめばいいんですか。




