これ以上はごめんですね。
「初めまして…えっと、魔術師?って呼ばれてるんだっけ?」
「…サラです。」
もぐもぐ。
王太子に取られまいと仏頂面で食事をする私に彼は挨拶してくるが名前のみ伝えて咀嚼を再開。ちょっとだけ冷めてしまった料理だけど美味しい。出来立てはもっと美味しかったろうに許せん。
トゥコーテンさん達も黙々と口に運んでいて完全に王太子を無視している。不敬?知らん。彼が勝手に会いに来たのが悪い。
「キミにも頼みたいことがあるんだけど…。」
「アルテナはこの戦争には関係ありません。牽制してきたのに頼み事ですか。」
帝国の皇太子の手紙に彼が関与しているのは分かりきったことだし、それは内容もだ。なのに頼み事っておかしくない?
「戦争後落ち着くまでアルテナで匿ってほしいんだ。」
「は?」
匿う?それって、王太子と王太子妃がアルテナで生活するってこと?
その頃には王族ではなくなっているけども。
「お前、そのお願いが通ると思っているのか?」
「勿論そちらに要求があれば「やめとけ。」…なんでだよ。義兄さんは良くて俺は駄目とか。…黒髪の分際で。」
「なっっ!」
此処に来てから私とのやり取りが極端に少ない気はしていたけど、そういうことか。王太子妃の方はどうかは知らないけど、彼は黒髪を受け入れてくれていないらしい。
先にキルト君が激昂してグラスを叩き付けて粉々にするのが目に入ったからかいくらか冷静になれている。ここまで綺麗に崩れた物って魔法で修復出来るのかな?弁償するの嫌だよ?
それにしても、今この場に彼が居なくて本当に良かった。でないと、
「殿下、まずはその『口を閉じましょうか』。」
「っ!?」
「殿下の仰る黒髪がもう一人居なくてよかったですね。私は優しいから何もしないでいてあげてますけど、殿下のもう一人のお義兄様が居たら既に首と体が離ればなれになっていましたよ。」
「…何が優しいよ。黙らせてるし、間接的に大事な婚約者様が貶されてめちゃくちゃ怒ってるくせに。まぁ…レイルが居なかったのは本当に良かったわね。」
喋れない殿下を真っ直ぐに見つめて優しく言ってあげれば横からトゥコーテンさんがツッコミを入れてきた。カイル様が便乗してレイル君がやりそうなことを殿下に向かって挙げてみれば、その顔はだんだん青くなっていく。キルト君はそれに頷いているけど、滞在中に何か怒らせるようなことでもしたのだろうか。
「申し訳ありません殿下。そのお願いを受けることはできませんわ。」
「っ!っ!」
「せいぜいコソコソ這いずり回って生き延びればいいんですよ。さぁ、『お帰りください』。」
強制的に動かしたせいで彼の座っていた椅子が倒れて大きな音が響いてしまう。客の目が此方に集中したが自分達の興味をそそるものでないと分かるとすぐに視線は外れた。
声の解除はしていないが城に着く頃には戻っているだろう。彼の動向は今後もレイル君の鴉が見てくれると思うし。
「先を急ぎましょうか。」
「そうですね。食べたらすぐ出発しましょう。」
万が一追ってこられるのも困るしさっさと進まないと。
 




