【???side】崩壊を望む王太子の横で壁の花は覚悟を決める
「…殿下、今なんと?」
自領で弟の領地経営の勉強を手伝っていた私に届いた手紙は婚約者であるこの国の王太子からだった。定期的に城でお茶会を開いて交流しているが、それはこの前やったばかりだ。幼い頃からずっと一緒にいた彼は私のいる辺境伯領にしょっちゅう遊びに来ていたので、城にずっといるのはつまらないのかもしれない。
仕方ない、遊びに行ってあげよう。私だって満更でもないのだ。婚約者から外されると聞いた時の絶望感は今もこの胸に燻っている。あの時ルーヴさんが言った通りアルテナ側から辞退の申し出があったから今もこのポジションにいるが、いつ変わってもおかしくないと痛感させられた。
王太子となった彼に釣り合うように今まで以上に頑張らないとと気合を入れたのだが。
「俺達もアルテナに住みたいねって。」
「いやいやいや!殿下、仮にも王太子が何を言ってるんですか!?」
彼の自室に入った途端人払いをして二人きりになったことにすら驚いていたのに、更に爆弾発言をかます目の前の婚約者に不敬なんて言葉さえ忘れてツッコんだ。
「だって、フィオナ王妃もカイル兄様もレイル兄様もアルテナでのんびり暮らしてるんだよ?俺だけこんな堅苦しい生活嫌だよ。国の皆には悪いけど、俺はお前さえいればいいからさ。」
「え、あ、私も殿下さえいれば…って待ってください。王妃様もカイル殿下も生きてるんですか!?」
「うん。俺探索出来るから。」
続く言葉に絶句する。昔から私を見つけるのが得意だとは思っていたが、まさか祝福だったとは。
「ちょっと待ってください。それならカイル殿下があの時死んでいないって分かっていたんですよね?何故その場でそれを言わなかったんですか?今からでも戻ってきてもらえば…。」
「俺の祝福は誰も知らないし言うつもりもないから。それに、死んだことにするくらいだし戻ってくるつもりなんてないだろ。」
確かになかなか大掛かりな演出にはなるが。レイル…殿下も関与していたとなるとアルテナが全面協力したのだろう(実際成功しているし)。そうなってくると、だいぶ前からあの二人はアルテナと繋がっていたのか。どうやって?
「見慣れない魔道具の反応があるからそれを使ったんだろう。今も飛び回ってる。あちらには優秀な人材が沢山いるようで羨ましいよ。」
「心の中の疑問にまで答えてくれてありがとうございます。って今もですか?」
「うん、監視でもしてるのかな?ってことで、俺は王太子を辞めるつもりだ。付いてきてくれるな?」
疑問符が付いているがこれはもう選択肢など無いのだろう。あぁ辺境伯の皆さん、最低な私をお許しください。
「でも、辞めますなんて素直に言いませんよね?どうするんですか?」
「母を使う。」
「側h…正妃であるお義母様をですか?」
何度かお会いしているお義母様は最近側妃様と呼ばれるのをとても嫌がる。正妃として扱われたいのに周りが未だに渋い顔をしているから余計に機嫌が悪いのだろう。
それでもお義母様を使うだけで上手くいくとは思えないが。
「そうだな…まずは帝国に行こう。この国をやると言えば嬉々として食い付いてくるだろ。」
「え、比較的友好なメドニエではなくてですか?」
メドニエとは反対の隣国、クルング帝国とはそこまで交流がない。過去に何度か小競り合いがあり今は落ち着いているものの、代替わりすればそうもいかないだろう。今の皇帝陛下は進んで戦を仕掛けてくる人でないだけで実は虎視眈々と狙っているのかもしれないけど。
「よし、父上に遊学の許可をもらってくる。お前はどうにかしてアルテナと連絡をとって事情を説明しておいてくれ。」
「私がですか!?無理ですよ!」
「さっき言っただろう?魔道具が飛んでると。…賢いお前なら上手くやれるだろう?」
手の甲に一つキスを落とした殿下は、私の大好きな笑顔でお願いをしてきた。
あぁ、拒否権はないですよね…はぁっ…。




