父よ、貴方もか。
「本日はわざわざお越しいただきありがとうございます。解呪の件では大変お世話になり感謝してもしきれません。」
「いいんだ、無事で何より!メドニエから持ってきたミーツは既にトゥコーテン殿の所に運んであるので好きに研究に使ってくれ。栽培方法などの資料も共に渡してある。」
「ありがとうございます。」
目の前に座るアシュモード陛下は本当に心配してくれていたようで胸の辺りがポカポカする。見た目はまだ若いのに、おじいちゃんに甘えているような感じ。
陛下との予定を合わせてこうして会えたのは、ヤシュカの魔族達が一時撤収して数日のことだった。一応交易するにあたっての責任者はロシュロール殿下だったので顔を合わせたが、事務的な会話ですらレイル君が行ってしまった為一言も交わすことなく彼等は帰国していった。
「それよりも弟が申し訳なかったな。君が私達を利用して国を滅ぼすなど考えるわけがないのに。」
「構いませんよ。王族として当たり前の対応だったと思っております。」
「聖女とやらの話が本当かどうかも分からない状態なのは確かだが、限度ってものがあるだろう…。」
陛下の表情が暗くなる毎に隣に居る父の胃の辺りをさする回数が増えている気がする。父よ、そろそろ慣れてほしい。
「本当に気にしないでください。交易の停止は一時的なものですので…。それよりも、ハンナさんの処遇はどうしますか?」
「直接の被害にあったのはサラ殿なのでアルテナの方で任せてもいいんだが…。」
事前に報告書にまとめて渡してあるのでハンナさんの事情も全て彼は把握している。やはり呪いが関わっているとなると自分達で処理したくなるようだ。
彼女はその後また何も語らなくなったらしい。諦めたのか、ヤシュカにさえ行けば殿下が助けてくれると信じてるのか。
「ちなみに、殿下はハンナさんのことをどう思っているのですか?」
「初対面時から印象は悪かったらしい。サラ殿の許可が下りれば、彼女への罰はあいつ自身が与えるそうだ。」
「うわ…容赦なさそうですね…。まぁ彼女は殿下に会いたいみたいですからご褒美になりそうですけど。」
結局ヤシュカに引き取ってもらってあちらで処分するそうで。処分って、殺す気満々じゃんとはツッコまなかった。いちいち気にしていたら父のように胃痛がおさまらなくなるし。
「では、罪人はこのままこちらで連れて帰る。聖女の件は影に探らせるので定期的に報告しよう。」
「ありがとうございます。こちらでも調べてみます。ハンナさんの所まではカイル様に案内してもらってください。」
カイル様なら万が一ハンナさんが暴走したりしても上手く対応してくれるだろう。陛下が魔族で最も強いとはいえ、かすり傷一つでもつけたら国際問題だ。
部屋の隅に置かれたボックスに簡潔なメモを入れてカイル様の所に飛ばす。中身が無くなったのを確認してから、彼が来るまでしばし談笑が始まる。
かと思いきや。
「あの…。私から一つご報告が…。」
「え?父さん、何かあったっけ?」
今まで胃の心配をするだけで一言も発さなかった父が恐る恐る声をあげる。私が把握していない報告なんてあっただろうか?基本全ての情報は共有したいから役所の人にお願いしてまとめてもらっているはずなのだが。
「スヴェン殿からとは珍しいな。」
「はい…。この度、うちの娘のサラは…、レイル殿と婚約することになりまして…。」
「「………は?」」
はぁぁぁぁぁ!?




