【???side】門番の夏休み
「ヤシュカとの交易をしばらく停止するにあたり、ここの門も閉めます。詳細は追って説明するので、職員にその旨を伝えてください。」
レイル様とヤシュカの王弟殿下がそろってやってきたと思えば、いきなりの交易停止宣言。責任者である自分が呼ばれたから何か粗相でもしたかと焦っていたのに、予想もしない話だ。
何があったのか聞く権利はあるはずなのにレイル様は無表情で怖いし、王弟殿下は心なしか気落ちしていてとてもじゃないが尋ねる雰囲気ではない。本当にどうしたのだろう。決定はサラ様がなされているはずだが、不興でも買ったのか?
「レイル様…、停止期間中私達はどうしたら…?」
「代わりの仕事を用意するので心配しないでください。こちらで補償はするのでゆっくり休んでいただいても構いませんし。」
いつもご苦労様です、と少しだけ口角が上がったレイル様を見てホッとする。役所の職員の次に忙しい交易門の責任者になって数年、ちゃんと休みはあったし不満も何もなかったけど、せっかくなら長期休暇を選択してもいいかもしれない。
王弟殿下が隣国に行くにあたり預かっていた船へ案内する為に部下を呼んで連れて行ってもらう。その間も彼は無言だった。
「ヤシュカとは良好な関係だと思っていたのですが、一体何があったのですか…?」
後ろ姿を見つめながら隣にいるレイル様に問えば、溜息を一つ。
「メドニエでの話は聞いているかい?」
「あ、はい。軽い報告書がこちらにも届きました。サラ様にかけられた呪いはどうなったのですか?」
「それは無事に解呪出来たよ。数日は大人しくしていてもらうけど、すぐに顔を見せるようになると思う。」
街の方から不気味なサイレンが聞こえてきた日のことはよく覚えている。次いで送られてきた報告書の内容に職員一同隣国に対して怒り狂ったものだ。そうか、無事に解呪出来たのか。
では何故こんなに不穏な状況なのだろう。
「これは僕も悪いのだけど…。サラの元母親と元姉がやってきてね、面倒だったから僕がメドニエに飛ばしたんだ。」
「え。」
「姉の方が聖魔法使いだったんだけど…。それを知った向こうの王太子が求婚して王太子妃になったんだ。」
「は…?」
「聖女だって崇拝されてるらしいんだけど。それだけじゃなくて、未来を見通せる力もあるらしくてね。殿下が彼女から聞いた未来のことでサラと意見が合わなくてさ。」
かいつまんでの説明だったので所々意味不明だが、ようするにサラ様のご機嫌を損ねたと?
まぁ、商売は信頼の元に成り立つわけだから、しょうがないと言えばそれまでだが。
「ヤシュカ側が引き上げるのに多少は時間がかかるだろうから、その間に君達も準備しておいてください。恐らく最低一か月は停止になると思うから…。」
迷惑をかけるね、と困ったような笑顔でそのままレイル様は去っていった。これからサラ様と色々話し合わなきゃいけないことがあるそうだ。
そんな彼等には申し訳ないけど、せっかくだし、突然の長期休暇を全力で楽しみたいと思ってしまった。
レイル君の口調が迷子でどうしようもない。
 




