私は何もしてないのである。
「え、あ、あ、あ、何これ!速すぎ!」
「なかなか快適でしょう?」
走る路面電車の窓から流れる景色を見て絶叫するトゥコーテンさんはなかなか可愛い。初めて電車に乗った子供のように瞳がキラキラしているのも良いよね。
まぁ私が開発したものでなく前世の知識からお借りしただけで自慢なんて出来ないのだけども。ただ前世のよりちょーっと速度強化しただけだ。
城門に到着した頃には日は暮れていて、残してある森のせいかだいぶ暗い。
「どうしてここだけ森を残してるの?」
「侵入者対策ですよ。住民はこの路面電車を使って直接ここまで来れるので、それ以外の侵入者はこの森で迷ってもらってお帰りいただけるかなと。」
「住民と区別なんて出来るの?」
「それは一応案はあるので追々。………お、見つけた。」
所謂正門である此処は先代が隠し部屋を作っていた。入室には魔女の指紋が必要とか、なかなか凝ってるよね。
細長く造られた部屋はガランとしていて、一見何もない倉庫のようにも見えるけど。
「ドルベルドは何処に繋がってるのかなぁ?」
少し奥へ行きある地点で足を止める。
何もない壁に向かって呟く私を見てトゥコーテンさんは訝しげな視線を寄越してくるが、それはすぐに驚愕に塗り替えられる。
「転移魔法!?」
「そうです。これ、各領までの転移魔法が組み込まれてる部屋なんです。暗いから分かりづらいですけど、ちゃんと上に領名の入ったプレートありますから。」
「本当だ……。貴女、どれだけ魔力の高い魔女なのよ…。」
その呟きはスルーさせてもらう。残念ながら、私は何もしていないからね。現段階までで自分の力でやったことといえば、簡単な料理とトゥコーテンさんの動きを封じることだ。
あとは先代達のチートで遊んでたようなものである。
「お、ラッキーですよトゥコーテンさん。ちょうどドルベルドは教会の裏に転移出来ますよ。」
「っ!それなら大幅な時間短縮ね。」
「因みに、救出する人数ってどれくらいですか?」
「孤児院で働く人も含めて20弱かしら。」
「…じゃぁ、帰りは転移よりこっちかな…。」
部屋の隅に置かれた木箱から移動用の遺品を取り出してポケットにしまう。この木箱、自宅の遺品置き場と繋がっているのよね。先代って恐らく一番偉大な魔女だったのだろう。私はまだ日記を書き始めたくらいで、万が一の時の為に何か遺そうなんて考えられない。
「間に合うかしら?」
「トゥコーテンさんが取り壊しを聞いたのは昨日とかでしょ?なら間に合いますよ。」
「……。」
「え?違うんですか?」
「聞いたのは3日前。その翌日にオズマンに向かって出発したのだけど、何故か馬車のトラブルが多くて仕方なく身体強化して走り続けたの。流石に丸一日以上走ったから魔力空になっちゃって、昨日はこの森にお世話になろうと…。」
「うん、それ絶対妨害されてるじゃん。早く行かないと。」
恐らく森に入る直前まで監視されていただろう光景がありありと見える。そのまま監視を続けているならラッキーだが、手が出せないとなって引き返していると厄介かもしれない。
気まずそうにしているトゥコーテンさんの腕を引っ張り魔方陣に突撃する。
どうか間に合いますように。




