【???side】母はもどかしい
「へぇ…。そんなことになってたのね。」
けたたましいサイレンに起こされた私のもとに届いた手紙は息子からだったのだが、病院に行けということしか分からなくて。状況がまったく把握出来ず不愉快な気分になるが、それでも王妃時代の癖で一切表に出さず優雅に向かえばそこは戦場だった。
交代して休憩に入る息子の嫁から事情を聞いて、向こうに横たわる小さな体を見やる。
「液体を媒体って凄いわね。取り込んじゃったら破壊しようにも出来ないじゃない。」
「同感です。成功しても、サラの肉体が保つかどうか…。」
トゥちゃんの初めて聞く震えた声に内心舌打ちをしてしまう。勿論彼女にではない、メドニエに対してと自分にだ。
予知夢を見ていたら未然に防げたかもしれないのに、レイルをアルテナへ送り出してからパッタリと見なくなったのだ。使えない自分の能力をいっそ呪いたくなる。
「それで、ただでさえ忙しいのに珍客と。私が追い払ってきましょうか?」
「それじゃぁ偽装した意味がなくなるので止めてください。」
何カイルと同じこと言ってるんですか、とトゥちゃんに窘められ口を閉ざす。駄目ね、冷静にならなければ。
遠くない未来もう一人の義娘になるであろう少女(レイルが逃がすはずないのは勿論、自分も全力で応援したい)が出るのが恐らく1番良いのだろうけど。
「…トゥちゃん。この街に変身を得意とする子はいないのかしら。」
「変身ですか?…聞いたことはないですよ。まぁ、住民を管理してる役所の担当なら把握してると思うので、そこで確認するのが確実ですけど。」
私が言わんとすることが分かったのだろう、彼女が役所に向けて手紙を書き始めている。
全ての人間が等しく使える基本魔法の他に与えられる特定の魔法。神が与えた祝福とも呼ばれるその数は決して多くないから、都合よく居るとは思えないけど。
「残念ながら、変身はいないようです。」
やはり居なかったようだ。振り出しに戻ったと思考をリセットさせようとすると、
「ただ、変声はいたようです。」
ニヤリ、と音が聞こえてきそうなトゥちゃんの笑顔と共に告げられた言葉に意識を戻される。
変装なら一般的な上級魔法でそれなりに使える人間はいる。他人にかける場合、術者が傍にいないといけないのが欠点だが。
「役所に行くわ。レイルは?」
「…牢で尋問中かと。」
「トゥちゃんは変声の持ち主を役所に呼ぶように手紙出してもらえる?」
「わかりました。」
もう一度サラちゃんを見て記憶に焼き付ける。そんなことしなくても息子が完璧に仕上げてくれると思うけど。
その前に尋問の惨状を目の当たりにして拳骨を落とすのが先になるとは思いもしない。




