【???side】治癒士の卵は胃薬を所望する
閲覧、ブクマありがとうございます。今回は完全モブ視点です。自分でも何書いてるか分からなくなってきました…。
「処置室の準備をすぐにして!そこの子!浄化魔法使えるのよね!?ロシュロール殿下達と一緒に解呪の手伝いに回って!」
初めて聞く耳障りなサイレンに、病院内は急に慌ただしくなった。後に非常事態のサイレンだと知るのだけれども、この時の住人はまた空から攻撃されたのではないかと恐怖で近場の建物に避難し、此処も一階がぎゅうぎゅうになっている。
そんな中で院長のトゥコーテン先生が1つの塊に向かって叫んでいる。解呪と聞こえたが、誰かが呪われたのだろうか?
「貴女!仕事がないなら手伝いなさい!」
「えっ!?私まだ研修中なんですけど…。」
「いいから!」
研修で檄を飛ばす彼女はよく見かけるけど、こんなにも切羽詰まってるのは初めてだ。アルテナが平和で怪我人等が滅多に運ばれないからだけど。
案内された先には城主代理のスヴェン様、カイル様、レイル殿にロシュロール殿下と錚々たるメンバーが揃っていた。見慣れない二人組に、メロ先生やアシュモード陛下まで。
いよいよこれはただ事ではないと彼等の中心を見れば、
「え…、サラ様?」
我らが城主が診察台に乗せられていた。検査着から見える肌には不気味な模様が描かれていて、そこから漏れている悪意にゾッとする。
これは間違いなく呪いだ。
「経緯は?」
「先程牢にぶち込んだ内の一人がお茶会の飲み物に含ませた液体に呪いが籠もっていた。飲んだあとすぐに意識を失って現状だ。」
「経過時間は?」
「一時間前後。そこのパーシルさんが浄化魔法の使い手だったから、相殺して進行はそこまでしてない筈。」
左右でのやり取りを理解するのに時間がかかる。
確かサラ様達って冷害を収束させるのに隣国に行ってたのよね?そこで呪われた?恩人に対して?
「私はもう一度メドニエに向かって話し合いの場に参加する。兄さんはトゥ先生とパーシルさんと一緒にサラ殿を診ていてくれないか?」
「いや、儂はヤシュカに戻る。アルテナの同盟国として正式に抗議を入れよう。」
「僕は…牢に向かいます。解呪方法を聞き出してきます。」
「私もお供致します。」
次々に交わされる言葉に待ったをかけたい。
ロシュロール殿下はもう一度メドニエに。
アシュモード陛下は自国に戻って抗議文。
レイル殿とメロ先生は牢に。
トゥコーテン先生とパーシルさん?はサラ様の治療に。
で合ってる?え?私とスヴェン様、カイル様、それともう一人の男性はどうしたら?
やる事無くない?
「私は住人に説明する為に役所に戻ろう。…娘を、よろしくお願いします…。」
「任せてください。絶対死なせません。」
スヴェン様は震えた声でなすべき事を告げた。きっと一番辛いはずなのに、傍にいても力になれない絶望は私じゃ理解出来ない。
「私は図書館で解呪の本探してくるよ。無理はしないでおくれ。」
「大丈夫よ。ありがとう。」
そういえばこの二人はサラ様達が戻ってきたら結婚するんだったっけ。
トゥコーテン先生を一度抱きしめてから図書館に向かうカイル様を見送り、先程より密度が薄くなった処置室だが。
残った私達は?
「貴方は?」
「カミュと申します。パーシィへの魔力提供をさせていただければと。」
二人組のもう一人はパーシルさんの隣に立って答える。
魔力提供は相性が良くないと嘔吐感だったり体調が悪くなったりするって聞いたことがあるけど、もし出来るならパーシルさんが長時間浄化することも可能だろう。
「貴方は?」
「私の魔法は吸収なので役に立たないかと…。」
「吸収…。何か媒体を使うの?呪いは取り込める?」
「えぇ!?ば、媒体を使いますが、呪いなんて吸収出来るんですかね…?」
先生の提案にギョッとする。そんな発想したこともなかったから、出来るかなんて分からない。
サラ様を助けたいのは勿論だけど、私は必要無さそう。
「やってみなきゃ分からないでしょ。一刻を争うのよ。出来なくても怒らないからとにかく始めて。」
弱気な私にピシャリと言い放った先生はおしまいとばかりに診察台へ体を向けた。それに続いて二人も作業に取り掛かってしまい、ポツンと残される私。
もうやるしかないらしい。
「媒体を持ってきます…。」
胃が痛くなってきた。
ついでに薬品室で胃薬貰ってこよう。




